NASAは5日、低予算の月・惑星探査ミッションプログラム「ディスカバリー計画」において、新たに2つの小惑星探査計画を将来的な打ち上げ候補として選定したと発表しました。小惑星探査計画が2つ同時にディスカバリー計画として選定されるというのははじめてのことです。

今回選定されたミッションは、トロヤ群と呼ばれる小惑星を探査する「ルーシー」(Lucy)と、金属質の小惑星を探査する「サイキ」(Psyche)の2つです。

ディスカバリー計画は、NASAが進める低コストでの月・惑星探査です。かつての大型ミッションが多額の予算を使いすぎ、ミッションの進捗が遅くなってしまうなど、動きが鈍くなったことを反省し、科学者が自分の目標とするものを探査することを念頭に、小型で低予算、かつ打ち上げまでの期間を早くできるようなミッションを実現することを目標としています。その代わり、ミッション実現に際してはNASAの審査を経る必要があります。
過去には、火星への着陸、そして超小型ローバーが活躍した「マーズ・パスファインダー」や、世界初の水星周回を実施した「メッセンジャー」、月の重力探査を行った「グレイル」などがディスカバリー計画のプログラムとして承認され、実施されました。

今回の選定には、5つのミッションが残っていました。上記2つに加え、

  • DAVINCI(ダビンチ)…金星の大気を降下する探査機によって金星の大気を調べるミッション
  • VERITAS(ベリタス)…金星を周回しながら金星(大気に覆われているため直接地表を観測できません)の高精度マッピングを実施するミッション
  • NEOCam(ネオカム)…地球近傍小惑星のうち、地球に潜在的に衝突する危険がある小惑星(PHA: 潜在危険小惑星)のうち、未発見のものを発見することを目的とした宇宙赤外線望遠鏡

これらにルーシーとサイキ、合計5つが候補となっていました。

それでは、選ばれた2つのミッションをみていきましょう。

ルーシー

ルーシーは、木星の「トロヤ群」と呼ばれる小惑星を調べるミッションで、2021年10月に打ち上げ予定です。最初の目標は小惑星帯の小惑星の探査で(まぁ、通過するのでちょいと調べていこうか、という感じでしょうか)、2025年に到達予定です。そして、最終的に木星の軌道上にあるトロヤ群小惑星に到達し、そのうち6つの小惑星を調べることになっています。この探査期間は2027〜2033年と、かなり先のことになりそうです。
トロヤ群とは、小惑星のうち、木星と同じ公転軌道上を(太陽の周りを)回る小惑星です。木星との軌道上、重力が吊り合って比較的安定している点「ラグランジュ点」のうち、L2点とL4点の周辺にある小惑星をトロヤ群小惑星と呼びます。

トロヤ群小惑星の図

木星の公転軌道上に存在するトロヤ群惑星の図。木星(Jupiter)の公転軌道上にある緑色の物体がトロヤ群小惑星。ウィキペディア日本語版より。

 

小惑星にもいろいろなものがありますが、トロヤ群は木星の重力に捉えられ、かつ木星と重力的に釣り合うラグランジュ点に集まっているものです。これらの小惑星は太陽系が誕生した頃そのままの性質を保っていると考えられており、特に木星などの外惑星のもととなった可能性もあります。

「ルーシー」の主任研究者であるサウスウェスト研究所のハロルド・レビソン氏は、「このような探査は非常に貴重な機会である。トロヤ群小惑星は、木星のような外惑星を作り出した大元の物質と考えられ、太陽系の起源を探る上で欠かせない鍵を握っていると考えられる。ルーシーという名前から連想されるのは、エチオピアで発見された類人猿であり、人類の直接の祖先(すなわち、すべての人類の大本)ということであるが(編集長注: 最近の学説では少し異なるそうです)、その名前を受け継ぐルーシー(ミッション)も、私たちの大本を調べる上で画期的な役割を果たすだろう。」と、このミッションの意義を述べています。

ルーシーは、2015年に冥王星に再接近し、大きな話題を巻き起こした「ニューホライズンズ」の機器を活用します。具体的には、その目となった冥王星撮像装置(Ralph)と広範囲観測カメラ(LORRI)の改良バージョンが搭載される予定となっています。さらに、ニューホライズンズチームを経験したメンバーの一部がこのルーシーにも加わる予定となっています。さらには現在小惑星に向けて飛行中のオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の機器のうち、熱赤外スペクトロメーター(OTIS)の改良版が搭載されるほか、オサイレス・レックスのチームメンバーもこのミッションに加わる予定です。

サイキ

「サイキ」は、小惑星帯にある金属質の小惑星「プシケ」(Psyche)を探査するという、これまでにない探査になります(小惑星Psycheとミッション名Psycheは同じものを指していますが、本記事ではカタカナ表記を使い分けています。記事最後の注釈をご覧ください)。
これまで探査されてきた小惑星はいずれも岩石質、あるいは有機物や揮発性物質を含むタイプの小惑星で、金属質の小惑星は探査されていませんでした。
地球に落ちてくるいん石の中に、金属の塊があるのをご覧になったり、場合によってはお手に取った経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの元になる小惑星とされているのが、金属質の小惑星です。
プシケは、そのような小惑星の中でも結構大きく、大きさは直径で210キロメートル(ただ、形が不規則なのに気をつける必要はあります)、ほとんどが金属(鉄及びニッケル)でできていると推定されています。この「鉄及びニッケル」でピンときた方もいらっしゃると思いますが、実はこの構成物質は、地球のコアを構成している物質とそっくりなのです…というか、なのだと思われています(コアの物質を取ってきた人はまだいませんからね)。

どのようにして小惑星が今のような姿になったかという理由はいくつか考えられていますが、有力な説の1つに、かつて存在した惑星(母天体といいます)が何らかの理由で粉々になり、いまのように小さな天体の集まりになったというものがあります。
母天体はそれなりの大きさを持っていたはずで、そうしますと、地球や火星、あるいは月のように、全体が溶け、金属のような重いものが下に沈み、最終的には中心に金属からなるコア、その周りにやや重い物質からなるマントル、最上部に比較的軽い物質からなる地殻という成層構造ができたのではないかと考えられます。
そして、そのコアが小惑星として漂っているのがプシケなのではないか、というのが今の科学者の推測です。それを確かめよう、というのがこのミッションであり、この「サイキ」が打ち上げられれば、私たちは基本的にすべてのタイプの小惑星を一応は探査することになります。そして、小惑星の成り立ちや、その母天体(そもそも母天体なるものが存在したのかも含めて)の謎、さらには太陽系全体の成り立ちを解き明かす大きなチャレンジにつながっていくことでしょう。

「サイキ」の主任研究者であるアリゾナ州立大学タンパ校のリンディー・エルキンス氏は、「これは全く新しいタイプの世界への旅である。岩石でも氷でもなく、金属の世界への旅だ。プシケはこの種の小惑星として唯一知られているものであり、人類が天体のコアを訪れるという唯一の体験へとつながる旅でもある。外宇宙を訪れることで、私たちは内宇宙を知ることになる。」と、ミッションの意義を語っています。

「サイキ」は2023年10月(ちょうどこのタイミングは、オサイレス・レックスの帰還とほとんど同じ時期にあたります)に打ち上げられ、途中2024年に地球スイングバイ、2025年に火星スイングバイを実施し、相手の小惑星プシケに到着するのは2030年の予定です。

 

さて、上記2つのミッションの選定に加え、NASAの選定委員会は、落選してしまったネオカムについて、さらなるミッション研究のための追加資金を供給することを決定しました。

NASAの惑星科学部門長のジム・グリーン氏は、「これらのミッションは、どのように太陽系ができ、そして今に至ったのかを調べるという、NASAのより大きな戦略にまさに沿った形のミッションであるといえる。私たちはすでに地球型惑星を、ガスでできている外惑星を、そしてその他様々な、太陽系の天体を調べてきた。ルーシーは太陽系最古の物質を直接探査しに行くという使命を、サイキは天体の内部を直接観測するという使命を負ったものである。これらにより、新たなパズルの埋め合わせができ、私たちの太陽系や惑星がどのようにして誕生し、いまに至るまで進化してきたのかをより深く理解することができる。そして、生命がなぜ、どのように誕生し、いまに至ったのかを知る上でも、将来的に大きな助けになるだろう。」と、この2つのミッション選定の意義を語っています。並んで並んで

今回のミッション選定に当たったNASAの科学ミッション部門でNASA副長官のトーマス・ザーブチェン氏は、「ルーシーはトロヤ群小惑星という非常に多くの環境を持つ天体を探査する。サイキは金属質小惑星という、これまで探査したことがない小惑星の探査に挑む。こういった計画こそがディスカバリー計画の意義である。私たちがこれまでやってきたことがないことに挑むというのが、その意義なのである。」と、こちらはディスカバリー計画の意義を語っています。さらにいえば、そのような挑戦を「低価格で」成し遂げるということにも意義があることかと思います。

さて、今回2つのミッションが同時に選定されましたが、その両者が小惑星であった、ということについても非常に興味深いところです。ディスカバリー計画で2つのミッションが同時に選定されたということは過去にもいくつか例がありますが、その両方が小惑星という同じターゲットであるというのははじめてです。もちろん、片方がトロヤ群小惑星、片方が小惑星帯の金属質小惑星と異なる目標であることは確かですが、5つの最終提案の中から2つの小惑星探査を選出したということは、単にミッションの優劣だけではなく、現在のNASAが進める小惑星探査プログラム「小惑星イニシアチブ」の影響が大きいのではないかとも考えられます。
実際、小惑星イニシアチブについては計画の遅れなども指摘され、議会で2017年度予算の拠出が否決されるといった事態にもなっています。さらに、まもなく発足するトランプ次期政権が打ち出す宇宙政策によっては、これらがすべてひっくり返されることも想定されます。その前に、小惑星探査、そしてそこから火星に向かうという布石を打っておこうというオバマ現政権の意向が働いているのかもしれません。

しかしいずれにしても、これら2つの計画は野心的であり、私たちとしても非常に興味深いものであります。実際に探査天体にたどり着くのは2030年ころと非常に先ではありますが、ぜひその結果を見届けましょう。私も見届けたいものです。

ルーシー計画とサイキ計画のイメージ

ルーシー計画とサイキ計画のイメージ。実際に両者がこのように並んで飛行するわけではありません。(Photo: NASA)

[おことわり] Psycheについては、多くのサイトにおいて、綴り読み、あるいはラテン語読み(小惑星など天体に関してはラテン語読みを原則として採用することが多いようです)として「プシケ」と記されていることが多いようですが、月探査情報ステーションにおいては、「ミッション名については当事国における発音に従う」という原則に基づき、本ミッションをその発音に最も近い読み方である「サイキ」と本記事では記述しております。今後月探査情報ステーションにおいて記述に変更が生じる可能性がありますことをご了承ください。

【追記】(2017年1月5日午後8時30分)記事内で、Psycheについては小惑星としてのPsycheとミッション名としてのPsycheが同時に使われています。ところが、日本語では小惑星についてのPsycheは「プシケ」と表記されることが多く、例えば日本語版ウィキペディアの項目も「プシケ」となっています。一方、ミッション名は上記おことわりにあるように「サイキ」が適切と考えられます。そのため、記事を若干修正し、小惑星名について述べる際には「プシケ」と、ミッション名として述べる場合には「サイキ」という表記に改めました。なお、この修正に合わせて誤記や打ち間違いの修正も行いました。