まず、月光協会とは次のような団体だったそうです。

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「月光協会」、あるいは「月奇人協会」と呼ばれるこの団体は、英語ではThe Lunar Society of Birmingham (または単にLunar Society)といいます。この名の通り、イギリス・バーミンガムで設立された、科学者たちの団体です。
月光協会が設立されたのは1766年です。もともとは、月光サークル(Lunar Circle)として、1765年頃から集まりを繰り返していたようですが、最初に月光協会としての集まりを開いたのは、1775年ということだそうです。ちなみに、この最初の(正式な)会合は、1776年の12月31日だったそうです。
「月光協会」という名称は、会合を満月に最も近い日曜日、または月曜日を催したことに基づきます。満月の前後に会を開いたのは、夜も明るいために帰るのに支障がないからだということだそうです。また、会員たちが世間から奇人と思われていたということもあるそうです。

メンバーは14人でしたが、当時の一流の科学者、技術者が揃っていました。例えば、

エラスムス・ダーウィン (Erasmus Darwin)

進化論で有名なチャールス・ダーウィンの祖父で、医師

ジョセフ・プリーストリー (Joseph Priestry)

酸素の発見など、気体に関する重要な研究を行った科学者

ジョシア・ウェッジウッド (Josiah Wedgewood)

有名な陶芸家。現在でも「ウェッジウッド」の名前は残っています。

ジェームス・ワット (James Watt)

蒸気機関の発明者として有名。

このほかにも、キア(James Keir: 化学工業の開拓者)、エッジワース(Richard Edgeworth: 馬車の緩衝装置の発明者)など、科学、技術、そして産業界や教育界などから集まった一流のメンバーが加入し、多くの業績を産み出しました。
たとえば、工業用の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム。当時のソーダ工業は、染料や薬品などさまざまな化学工業のベースになることから、注目されていました)の製法や、陸運、水運などでの新技術の開拓、蒸気機関や紡績機械の改良、さらには教育方法の改革にまで及びました。

しかし、月光協会のメンバーはこういった業績を何らかの形で本にまとめたりすることはありませんでした。また、協会の活動自体も、1790年頃には下火になりはじめ、1800年頃以降ほとんど活動を停止していたものと考えられます。(下のサイトによりますと、活動の停止は1809年ということになります。)

当時のイギリスは産業革命の真っ只中にありました。特に、イギリスきっての工業都市、バーミンガムには、当時の最新技術と最新テクノロジーが結集し、こういった一流の研究成果を生み出す素地は十分にあったのだと思います。
また、当時は現在ほど科学や技術が細分化されていなかったため、科学者や技術者が互いの技術や理論、成果を持ち寄って、その中からさらに新しい成果を生み出していくということが、ごく自然に行われていたのだと思います。
現在は事情はずいぶん変わってきているかもしれませんが、こういった異業種の科学者や技術者の集団が、新たな成果を生むという方法は、現在「IT革命」、あるいは「第2の産業革命」と呼ばれるこの現代でも、大いに参考になるのではないかと思います。

なお、現在でも、この月光協会の精神を受け継いだ「新・月光協会」と呼べる団体が、同じバーミンガムで活動を続けているようです。

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このように、月光協会自体は月の不思議な力でできたわけではないようですが、昔から月はいろいろと人に影響を与えてきたようです。
例えば、満月の夜には犯罪が多くなるとよく言われていますし、人が誕生するのも満月が多いと言われます。しかしこのような月と人の関係は、まだまだよくわかっていないことが多く、定説はないのが現状です。


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■参考資料

  • 世界大百科事典、平凡社