いきなりですが、どのくらいあると思いますか? たくさんあると思いますか? それともほとんどないと思いますか?
下の表に、日本人に関係した月面の地名の一覧を並べます。アルファベット順になっています。名前にリンクが張ってある方は、この下にさらに詳しいプロフィールを書いてあります。緯度の”N”は北緯、”S”は南緯、経度の”E”は東経、”W”は西経です。
地名 | 元になった人名 | プロフィール | 緯度 | 経度 | 地形、クレーター直径 |
---|---|---|---|---|---|
Asada | 麻田剛立 | 医者、天文学者 (江戸時代) |
7.3N | 49.9E | クレーター (12km) |
Hatanaka | 畑中武夫 | 天文学者 | 29.7N | 121.5W | クレーター (26km) |
Hirayama | 平山清次 平山信 |
天文学者 | 6.1S | 93.5E | クレーター (132km) |
Kimura | 木村栄 | 位置天文学者 | 57.1S | 118.4E | クレーター (28km) |
Murakami | 村上春太郎 | 天文学者 | 23.3S | 140.5W | クレーター (45km) |
Nagaoka | 長岡半太郎 | 物理学者 | 19.4N | 154.0E | クレーター (46km) |
Naonobu | 安島直円 | 数学者 | 4.6S | 57.8E | クレーター (34km) |
Nishina | 仁科芳雄 | 物理学者 | 44.6S | 170.4W | クレーター (65km) |
Onizuka | エリソン・オニヅカ | 宇宙飛行士 | 36.2S | 148.9W | クレーター (29km) |
Osama | (下をご覧ください) | ||||
Reiko | (れいこ) | 日本の女性名 | 18.6N | 27.7E | 谷 (2km) |
Taizo | (たいぞう) | 日本の男性名 | 16.6N | 19.2E | 谷 (6km) |
Yamamoto | 山本一清 | 天文学者 | 58.1N | 160.9E | クレーター (76km) |
Yoshi | (よし) | 日本の男性名 | 24.6N | 11.0E | クレーター (1km) |
出典: R. Greeley and R. Baston, The NASA atlas of the solar system (1997)
プロフィールについての出典: 中山茂編、天文学人名辞典、恒星社、1983
- 麻田剛立 (あさだ ごうりゅう: 1734 – 1799)
- 天文学者、数学者。天文を小さい頃から独学で学び、併せて医学にも長けていた。医者を本業としながら天文学を研究し、麻田流天学と呼ばれる学派を築いた。三男の立達(りゅうたつ)もまた優れた天文観測者。
- 畑中武夫 (はたなか たけお: 1914 – 1963)
- 物理学者、電波天文学者。戦後すぐに電波天文学の先駆的な研究を行った。特に、電波を使った太陽表面の観測で著しい業績をあげている。
- 平山清次 (ひらやま きよつぐ: 1874 – 1943)
- 天体力学、古暦の研究で有名。小惑星のうち、極めて互いに距離が近い一群の小惑星を発見した。これらの小惑星グループは、現在では「平山族」「ヒラヤマ・ファミリー」と呼ばれている。また、「一般天文学」などの教科書も著した。
- 平山信 (ひらやま しん: 1868 – 1945)
- 東京天文台(現・国立天文台)第2代台長。太陽の理論的な研究、小惑星の観測や発見(Tokio, Nipponia)、軌道決定、日食観測、恒星天文学に多大な業績を残した。
- 木村栄 (きむら ひさし: 1870 – 1943)
- 天文学者。位置天文学の分野において、「Z項」(地軸の変動成分のうち、極の運動とは独立に変化している成分。地球内部の変動に関係していると考えられている)の発見という不朽の業績を残している。水沢国際緯度観測所(現・自然科学研究機構国立天文台 地球回転研究系水沢観測センター)初代所長。
- 村上春太郎 (むらかみ はるたろう: 1872 – 1947)
- 天文学者、物理学者。同志社理科学校、第七高等学校で教鞭をとる一方で、天文学の普及に努め、「物理学原論」「天文と気象」などの本を著した。退官後は月の運行についての研究に没頭し、「月の摂動の理論」2巻を著した。
- 長岡半太郎 (ながおか はんたろう: 1865 – 1950)
- 日本の近代物理学の基礎を築き、多くの学者を育てた物理学者。貴族院議員も務めた。地磁気や重力の測定などを通して、天文学や位置天文学などの領域にも足跡を残している。とくに、原子核モデルについての研究は有名である。
- 安島直円 (あじま なおのぶ: 1732 – 1798)
- 和算学者。和算の創始者、関孝和から数えて第4代目の宗統(和算の最高師範)。中国の宣教師から伝えられた天文理論を取り入れて、日食や月食の計算法を編み出したことで知られる。その他にも暦法の計算方法の進歩に貢献した。
- 仁科芳雄 (にしな よしお: 1890 – 1951)
- 理論物理学者。原子の構造や量子力学の研究で大きな業績を残した。原子核や宇宙線の研究では、朝永信一郎などの後進を育てた。後年、理化学研究所の所長に就任し、戦後の日本の科学界、さらには日本の国際社会への復帰に大きな役割を果たした。
- エリソン・オニヅカ (Ellison Shoji Onizuka: 1946 – 1986)
- ハワイ生まれの日系人宇宙飛行士。空軍のテストパイロットを経て、1978年に宇宙飛行士になる。1985年には、宇宙飛行を行ったはじめてのアジア系アメリカ人となる。1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故により殉職。
- 山本一清 (やまもと いっせい: 1889 – 1959)
- 天文学者、測地学者。水沢緯度観測所で観測を続け、その後花山天文台長に主任。1920(大正9)年には東亜天文学会を結成し、会を主宰した。個人で山本天文台を創設するなど、生涯を通じて天文学の普及、啓発に大きく貢献した。
経歴をみておわかりの通り、月面に名を残した人々は、ほとんどが月を研究していた天文学者、物理学者、数学者などであることがわかります。
ところで、上の名前の中に「泰造」(泰三?大造?)や「玲子」(礼子?麗子?)といった一般的な人名がありましたが、月には日本に限らず、各国の一般的な人名がついた地名があります。例えば、日本人にもなじみのある名前でいえば、フランス人の女性の名前でジュリアンヌ(Julienne)、ロシア人の男性の名前でイワン(Ivan)などがあります。
以上をもとに、もう1つよくある質問として「日本人の名前がついたクレーターはいくつあるか」に回答しておきましょう。ヒラヤマクレーターは2人の日本人の名前がついています。また、エリソン・オニヅカ宇宙飛行士は日系米国人で日本人ではありません。従って、アサダ、ハタナカ、ヒラヤマ、キムラ、ムラカミ、ナガオカ、アジマ、ニシナ、ヤマモト、そしてヨシの10個となります。
追記 (2002.05.08)
日本人の名前がもとになったクレーター名として、”Osama”(王様?)という名前が本などで挙げられていることがありますが、これは実際には、アラブ人の名前「オサマ」(あるいは「ウサマ」)です。
■謝辞
- この回答の作成にあたっては、国立天文台 広報普及室(現 天文情報センター) 室長(当時)の渡部潤一博士のご協力を頂きました。
- “Osama”についての情報は、加藤俊博様より頂きました。
- 「日本人の名前がついたクレーターの数」については、白尾元理様からご教示いただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
「かぐや」地形カメラが捉えたナガオカクレーター
出典: かぐや画像ギャラリー、(c) JAXA/SELENE
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「かぐや」地形カメラが捉えたキムラクレーター
出典: かぐや画像ギャラリー、(c) JAXA/SELENE
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「かぐや」地形カメラが捉えたニシナクレーター
出典: かぐや画像ギャラリー、(c) JAXA/SELENE
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「かぐや」地形カメラが捉えたヤマモトクレーター
出典: かぐや画像ギャラリー、(c) JAXA/SELENE
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「かぐや」地形カメラが捉えたアサダクレーター
出典: かぐや画像ギャラリー、(c) JAXA/SELENE
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