ヘリウム3(「ヘリウム・さん」あるいは「ヘリウム・スリー」と呼ぶことが多いようです)は、ヘリウムという元素の中で、ちょっとだけ中身が違うもの(同位体元素)です。

ヘリウムは、元素の中では水素に次いで軽いもので、原子番号は2番でこれまた水素の次です。地球上にはあまりありませんが、例えば風船の中に入っていたり、吸うと声が変わるガスとして、皆さんにもなじみがあるかと思います。

ヘリウムは地球にはあまりないですが、太陽の中にはたくさんあります。そもそも、ヘリウムというのはギリシャ神話の太陽神「ヘリオス」にちなんで名付けられています。このヘリウムは、太陽の中で水素が核融合反応を起こしてできたものです。
核融合反応とはなんでしょうか? 太陽は地球の33万倍もの体積を持っている、巨大なガスの球です。これだけ大きなものになると、中心の圧力はたいへん大きなものになります。また、それだけの物質が上にあるため、中心部ではものすごい重力エネルギーも生まれます。
太陽の中心は1500万度という温度になるといわれていますので、高温・高圧の中で、水素の原子がくっついてヘリウムになるという反応が起きます。このときに膨大なエネルギーが生まれて、それによって太陽が輝いているのです。

さて、この太陽の中の核融合反応で、ヘリウム3ができます。このヘリウム3は、太陽風(太陽から流れてくる粒子の流れ)に乗って、月へ届きます。月には大気がありませんので、ヘリウム3は月の表面の砂(レゴリス)に吸着されます。
月ができてから45億年の間に、太陽からのヘリウム3は月の表面の砂にずっと吸着され続けてきたと考えられています。


さて、ヘリウム3それ自体も、核融合反応の材料になります。ヘリウム3と、水素の一種である重水素がくっつく(核融合する)と、ヘリウム4(普通のヘリウム)と陽子になります。このときに飛び出す陽子が膨大なエネルギーを発生させます。


ヘリウム3の核融合
(イラスト出典: 「宇宙開発、21世紀の将来像」、宇宙開発事業団、1992)

このような核融合を、人間の手で行う研究は、日本をはじめ、世界中で進められています。
核融合は、原子力(核分裂)に比べて発生できるエネルギーが大きく、また放射能が少ないという特徴があります。

月に豊富にあるヘリウム3を使えば、どのくらいのエネルギーが得られるのでしょうか?
月にあるヘリウム3の総量は、まだ正確に見積もられていませんが、全体で2万トン〜60万トンとされています。
計算では、月の砂に吸着されているヘリウム3をすべて使えば、現在の世界で使われている電力の数千年分のエネルギーが得られるとされています。また、日本全体の1年間の消費電力をまかなうためには、数トンのヘリウム3があればよいといわれています。
ヘリウム3の核融合は他にも利点があります。陽子の運動としてエネルギーを取り出せばよいので、効率がよいのです。放射性廃棄物や、二次的に出る放射線の量も少なく、その意味ではヘリウム3は「理想の核融合燃料」です。

ヘリウム3を含むのは、月の砂の中に含まれている鉱物「イルメナイト」です。月の砂には、イルメナイトが約10パーセントほど含まれています。イルメナイトは、粒子の大きさが8〜125マイクロメートルととても細かいため、太陽から月表面に降り注ぐ太陽風に含まれる微粒子を吸収しやすい性質を持っています。
ヘリウム3は、月の砂を600度以上に加熱すれば得られます。しかし、ヘリウム3は月の砂に均等にごくわずかずつ含まれているだけですので、そのためには膨大な砂を処理しなければなりません。
仮に、ヘリウム3を10トン取り出そうとすると、月の砂は100万トンも必要になってしまいます。日本の年間消費電力をまかなうために、月の砂を毎日3000トン近くも処理しなければなりません。
また、いま研究されている核融合に比べて、ヘリウム3の核融合は、必要な温度が高く、技術的にもたいへん難しいとされています。ですから、実用化できるのはもっとずっと先のことになると思います。

このようにヘリウム3によるエネルギーを使えるのは、まだまだ先の話ではあります。しかし私たちが将来月に進出して、月面基地を作る頃になれば、あるいはヘリウム3による核融合発電で、快適な月の生活を送れるようになっているかも知れません。


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