はじめて月に向かった日本の探査機は、1990年1月24日に文部省宇宙科学研究所(現・JAXA宇宙科学研究所)が打ち上げた「ひてん」(第13号科学衛星MUSES-A、打上げにはM-3SII-5ロケットを使用)です。
「ひてん」では次の8つの実験が計画されました。
- 月の重力を利用した「スイングバイ」という軌道変更技術の習得。特に月に繰り返し接近して加速し減速する二重スイングバイを行う。
(第1回は1990年3月19日に、第2回は1990年7月10日に成功し、二重スイングバイ達成) - 月周回軌道に孫衛星「はごろも」を投入する (1990年3月19日に成功)
- スピン安定型衛星としては世界で初めての光学航法装置を用いた軌道決定実験
- 新しい衛星搭載用計算機の機能確認と「パケットテレメトリ」という新しいデータ送信技術、データ処理の実験
- ドイツのミュンヘン工科大学と共同で微小宇宙塵の観測
- 新開発のインジウム・リン太陽電池を「はごろも」に使用
- X帯通信系を日本で初めて搭載
- 地球からの高度をおよそ120キロまで降下させ、地球上層大気との摩擦により減速させるエアロブレーキ実験を世界で初めて行う
(第1回は1991年3月19日に高度125キロでの実験成功、第2回目は1991年3月30日に高度120キロでの実験成功)
なんだか難しそうですが、「ひてん」は、将来の月・惑星探査に必要な軌道を変更したり、衛星をコントロールする技術や、データを送るのに効率のよい技術等を学び、実際に使えるかどうか試験するための工学実験衛星だったのです。
例えば、スイングバイは地球から遠く離れた惑星探査には欠かせない、燃料を節約する技術であり、全部で8回行われました。またエアロブレーキ実験は世界で初めてということで海外からも注目されました。
これらの実験を無事に行い、その後さらに追加実験として、
- 2つのラグランジュ点 (L4、L5) 周辺での宇宙塵の観測
- 燃料消費が最も少ないとされるホーマン軌道を使った「ひてん」の月周回軌道への投入
- 月面への衝突
を行いました。
1993年4月11日に衝突したときの発光現象は、シドニー郊外にあるアングロ・オーストラリアン天文台でとらえられました。秒速2.5キロで衝突した「ひてん」は、今も東経55.3度、南緯34.0度、ウサギの耳(カニのハサミ)の先端よりやや南にあるステビヌス・クレーター付近に転がっているはずです。
- ひてん
- 重量: 185キログラム(ヒドラジン燃料42キログラムを含む)
高さ: 79センチメートル
直径: 1.4メートル (円筒形) - はごろも
- 重量: 12キログラム (内蔵の減速用固体ロケットKM-L 5キログラムを含む)
高さ: 36.5センチメートル
対辺寸法: 40センチメートル (26面体)
ひてん (出典: JAXAデジタルアーカイブス, 写真: JAXA)
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