「クレメンタイン」と聞いて、何かぴんと来た方はおいででないでしょうか。そうです。この「クレメンタイン」は有名な西部劇の映画から名前をとっています。

1946年に公開された、「荒野の決闘」(英語題名: My Darling Clementine)という西部劇の傑作があります。
ジョン・フォード監督の手になるこの映画は、OK牧場の決闘を軸に、伝説の保安官ワイアット・アープと、鉱夫の娘クレメンタインとの淡い恋を描いた映画です。この映画のテーマ「愛しのクレメンタイン」(英語題名は映画と同じ)も大ヒットしました。この曲自体は、1884年に作られたアメリカの民謡です。
その1番は、こんな歌詞です。


In a cavern, in a canyon,
Excavating for a mine,
Dwelt a miner, forty-niner,
And his daughter Clementine.

Oh my darling, oh my darling,
Oh my darling Clementine
You are lost and gone forever,
Dreadful sorry, Clementine.
(注)原曲は11番まであります。

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(翻訳)
洞窟に、谷の奥に、
金の鉱脈を求めて掘り続ける
1849年の金鉱掘りが
その娘、クレメンタインと一緒に住んでいた。

おお、愛しの、おお、愛しの
おお、愛しのクレメンタイン
君はもうここにはいない、ずっと遠くへ行ってしまった
すごく悲しいよ、クレメンタイン

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歌詞中に出てくる”Forty-niner”とは、カリフォルニアに金鉱が発見されたため、金鉱発見を目指して「一山当てよう」と西海岸へと流れ込んできた金鉱探しの人々を差します。当時は未開の新天地カリフォルニアに夢を求めてやってきた人々が、1849年に大挙して西海岸に押し寄せた “Forty-niner” (直訳すれば「49年の人」)なのです。
このように大量に押しかけた金鉱掘りの人たちが、カリフォルニア州の基礎を築いただけでなく、現在のカリフォルニア州の産業を興す元ともなりました。
サンフランシスコに拠点を置くアメリカンフットボールのチームは「サンフランシスコ・フォーティーナイナーズ」です。
なお、曲のメロディーは「雪山賛歌」と同じです。


さて、ではなぜクレメンタインなのでしょうか?
クレメンタイン探査機には、分光カメラという装置が搭載されています。このカメラは、可視光線から赤外線まで、いろいろな波長の光を撮影することができるようになっています。
岩石がどのように光を吸収するかを測ることによって、それがどのような鉱物でできているかを知ることができます。つまり、この分光カメラは、月の表面がどのような物質でできているかを調べるための装置です。
つまり、この装置は鉱脈を探して歩く鉱夫のような役目を果たしていることになります。この意味から、鉱夫に関係の深い「クレメンタイン」の名前が探査機につけられたのです。

また、探査機自体も、月の探査が終わってしまえば、”lost and gone forever”、つまり、地球に戻ってくることなく永遠に太陽系空間をさまようことになります。その意味からも、さすらいながら金脈を求め続ける鉱夫になじみの深いクレメンタインこそ、この探査機にふさわしい名前ではないでしょうか。

偶然だとは思いますが、クレメンタインが打ち上げられたまさに同じ年(1994年)に、OK牧場の決闘を取り上げた映画「ワイアット・アープ」が公開されています。