アポロ計画では、月に地球のような磁場があるかどうかが調べられました。もし月にも地球のような磁場があるとしたら、月にも、地球のように磁場を産み出すような内部活動があることになります。それはすなわち、月が今でも活動的な天体であることを証明することにつながります。

アポロ計画で行われた磁場探査の結果、月には地球のように、全球で磁場が存在しているということはありませんでした。ただ、測定の結果、月の海の地域に「残留磁場」と呼ばれる磁場が存在していることがわかりました。
残留磁場とはなんでしょうか? 通常、月の海を構成しているような岩石(玄武岩など)の中には、鉄など、磁化しやすい物質が含まれています。こういった物質が、まわりの磁場の影響を受けて磁化され(つまり「磁石となって」)、その結果、岩石全体が弱いながら磁力を持つという現象です。まわりに磁場がなくなってしまっても、この磁場は(ちょうど永久磁石のように)保たれ続けます。
つまり、月の海に弱いながらも磁場があるということは、月はかつて磁場を持っていたが、それがなくなってしまったということを意味しています。

さらに不思議なことがあります。月の海の中には、局所的に、磁場が異常に強い地域があるのです。
例えば、表側にあるライナー・ガンマ(Reiner Gamma)地域がその代表です。アポロによる探査で既に、この地域が異常に強い磁場を持つことがわかっていました。1998〜1999年に行われたルナー・プロスペクター探査機による探査では、上空からの磁場測定で45ナノテスラ(nT)という磁場が観測されました。
地球磁場の強さが大体24000〜60000nTですから、この磁場は非常に弱いものなのですが、それでも月の他の部分でほとんど磁場が観測されないという点から考えますと、この数値はかなり強い残留磁場がこの地域存在するということを示しています。
また、さらに強い磁場を持つ領域が月の各所に点在していることも、ルナー・プロスペクタの探査により明らかになりました。それらの中には、300nTを超える、異常な強さを持っている地域もあります。

強い磁場がある地域には、いくつかの共通点があることがわかってきました。
1つは、そのような地域(特に裏側にある地域)は、月の海、それも比較的新しい時期にできた月の海(危難の海、雨の海など)のちょうど真裏にあるということです。
もう1つは、こういう強い残留磁場が観測される場所の多くに、白っぽい模様と黒っぽい模様で構成される、渦巻状の構造が観測されています。
これらの特徴が、異常に強い局所的な磁場の原因と、何らかの関係を持っているはずです。しかし、現在のところ、その原因はまだ明らかになっていません。
彗星の衝突や、太陽からの磁気嵐などといった外因説、月内部の火山活動や、内部から出てくるガスなどの影響による内因説があります。最近では、特に月の海の裏側に多いことに注目して、月の海をつくった大きな衝突が、月の裏側にまで影響を及ぼし、それが今に残る強い残留磁場を作ったという説が有力ですが、はっきりしたことはまだわかっていません。

ルナー・プロスペクターのデータは現在も解析が進められています。また、日本の「かぐや」でも、搭載された磁力計が月の周囲をまわりながら磁場をくまなく測定しました。現在解析が行われており、こういった探査により、月の磁場の謎が解ける日も近いかも知れません。


「かぐや」搭載の地形カメラが捉えた、ライナー・ガンマ地域
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出典: かぐや画像ギャラリー 地形カメラデータ, Copyright (c) JAXA/SELENE