■火星の内部構造の謎に挑む、はじめての探査機
インサイト(InSight: Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)は、火星内部を探査する、NASAの新しい計画です。火星内部構造を探査するための専用の探査機というのは、火星探査史上はじめてとなります。
インサイト(英語の単語としては「洞察」「本質」といった意味があります)は、そのまま直訳すると「地震計による調査、測地学、熱流量を利用した(火星)内部構造探査」となります。その名の通り、地震波や火星の自転、そして地下からもたらされる熱流量を調べることで、火星の内部がどうなっているのかを探るのがインサイトです。なお、探査形態としては「着陸機」となります。
火星に限らず、天体の内部構造を知ることは重要です。表面は周回機でも探査できますが、中身を調べるとなると、(重力などを調べるといった方法以外では)地震波など、内部構造に関連した情報を捉え、そこから推定するしかありません。地球でさえ、地震波によってようやく内部構造が明らかにされたわけで、ましてや他の天体の内部構造を調べるというのはなかなか大変なことです。
インサイトは、非常に精度の高い地震計を搭載していきます。NASAではこの地震計の精度を「原子1個分の揺れ幅でさえ感知できる」と述べていますが、火星では人工的な雑音(振動)が発生しませんから、地震計の精度を非常に高くすることができるのです。
これに加え、火星の自転のふらつきや、地下からもたらされる熱の流れ(熱流量)を調べることで、火星の地下構造全般に迫ろうとしています。

■火星から地球型惑星一般へ
火星の内部構造を知る理由の1つは、火星がどのようにしてできたかを知るということがあります。
これまで数多くの周回機が火星の表面については探査を行い、地形については非常に詳しいことがわかってきました。しかし、そういった地形がどのような力によってできたのかを考えるためには、地下に目を向ける必要があります。
例えば、地球ではプレートテクトニクスによって大陸などが動き、火山が噴火し、地震が起きます。またプレートが動くということは、地下のマントルと呼ばれる構造にも関係します。
では、火星ではどうなのでしょうか。火星ではプレートテクトニクスはあったかも知れないが、相当昔に活動が停止したとされています。その証拠が、オリンポス山をはじめとする火星の火山群です。巨大な火山ができるということは、1箇所にマグマが供給され続けるわけで、近くが動かなかったことを示しています。
では、火星のプレートテクトニクスはいつ終焉を迎えたのか、そして地球とは違う火山の成り立ちの真の理由、あるいは細かい理由は何なのか。これを調べていけば、地球と火星とを比較し、こういった天体の成り立ち、あるいは内部構造の移り変わりを知ることができるかも知れません。さらには金星や水星といった他の地球型惑星にも、その成果は応用できるでしょう。

■探査機はフェニックスのシステムを応用、2018年打ち上げ予定
インサイトは、かつて打ち上げられた火星着陸機「フェニックス」の設計を大幅に流用し、探査コストを低減します。また、4つの探査機器を搭載し、地震計はフランス宇宙機関(CNES)から、熱流量測定装置はドイツ航空宇宙センター(DLR)から提供されます。主要な観測機器がヨーロッパから提供されるという意味でも珍しいミッションといえるでしょう。
インサイトは、NASAの低コスト月・惑星探査計画の一環である「ディスカバリー計画」の1つとして2012年8月に選定され、2016年3月の打ち上げが予定されていましたが、NASAは2015年12月23日、搭載されている地震計に不具合がみつかり、その修理に時間がかかるとして2016年の打ち上げを断念しました。
2015年3月、NASAは新たな打ち上げプランを発表しました。それによると、打ち上げは2018年5月5日(正確には、この日から打ち上げ可能期間が始まります)、この日に打ち上げられた場合、火星到着は同年11月26日となる予定です。