インサイトの観測機器

インサイト着陸機の各種装置と観測機器 (Photo: NASA/JPL-CALTECH)

インサイトは、火星内部構造を探査するための装置を3つ搭載しています。地震計と熱流量計、そして電波により火星自体の形状変化を観測するための装置です。これらの装置を使って、火星の内部がどのようになっているかを調べます。


火星地震計 (SEIS)

火星地震計

火星地震計 (SEIS) (Photo: NASA/JPL-CALTECH)

火星で発生する地震(「火震」)を検知し、その地震波を利用して、火星内部の構造(コアやマントルの有無、その大きさや物性など)を調べます。

火星で地震が起きるのかどうかについてはまだ明確な結論はありません。1976年に火星に着陸したバイキング着陸機(2機)は地震計を搭載していましたが、記録されたデータは火星大気に起こる強烈な風によるものとも解釈され、実際に内部で起きた地震かどうかについては結論が出ていません。
今回、インサイトが明らかに地震と考えられるデータを検知できれば、火星でははじめてとなる地震の検出となり、地球と月以外でははじめてとなる地震の観測となります(「惑星」でははじめて、ともいえます)。
そして、その地震波の観測を通して、どのようなメカニズムで火星の地震が発生しているのかを突き止めることができます。

また、地震波は天体内部の情報を伝える重要な役割を果たします。
ちょうど、ものを叩くと中の物質がどのようなものなのかがある程度見当がつくように、地震波の伝わり方を調べることで、内部、とりわけ火星の深い部分がどのような構造になっているのかについて、これまでより非常に詳しいことがわかると考えられます。
このような内部構造のデータは、火星や地球という天体がどのように形成され、現在に至るまでどのように進化してきたのかを知る重要な手がかりになります。また、地球と火星における地震や地震波の伝わり方の違いは、2つの天体がどのように異なる形成や進化の過程を経たのかを知ることにもつながります。

イラストの通り、地震計は(過去の教訓を踏まえ)しっかりとした円形のカバーに覆われ、外部からの振動をなるべく伝えないようにしています。ただ、それでも地震計は非常に感度が高いため(「原子1個分の振動をも捉えることができる」という性能を持ちます。火星は人工的な雑音が少ないため、地震計の感度を大きく上げることが可能です)、どうしても大気の風などによる振動を拾ってしまうかもしれません。そのため、インサイトに搭載されている気象観測機器のデータも援用し、風による振動、さらには風などによって起こされると思われる地震についても捉えることを考えています。

地震計はフランスのパリ地球物理研究所で開発されました。


熱流量測定装置 (HP3)

熱流量測定装置

熱流量測定装置 (Photo: NASA/JPL-CALTECH)

火星の内部から伝わってくる熱の量(熱流量)を測る装置です。

火星の内部は今でも溶けていると考えられています。もう少し具体的にいうと、火星のコア部分は地球のように液体であると考えられています。また、マントルなどの部分にも熱が相当蓄えられていると考えられます。
こういった火星内部から地表に向けて熱が次第に上がってきます。この熱を捉えるのがこの熱流量測定装置です。

熱流量は、2つの温度計を離しておくことで、その温度差から測ります。ただ、そのような装置を地表や地表近くの地下に置くと、地上の温度の影響を大きく受けてしまいます。そこで、温度測定装置(上図では「Heat Flow Probe=熱流量プローブ」)は地下5メートルまで差し込んで測定を行います。そしてその測定結果は地表に設置された分析装置に送られます。

熱流量は、いま火星の内部にどのくらいの熱があるかを知るための貴重な手がかりになります。アポロ計画でも測定が行われ、月が「冷えている」のかどうかを知る手がかりとなりました。もし熱流量が多ければ火星内部は相当に熱を蓄積していることになり、その理由がどのようなものなのかを知る必要があります。熱流量が少なければ火星内部は冷えてしまっているわけで、火星ができてからなぜこのように冷え込んでしまったのかも知らなければなりません。

データはおそらく、地球や月(アポロ計画)における結果とも比較され、それぞれの天体での違いから、構造の違い、進化の違いなどが明らかにされると期待されます。

熱流量計は、ドイツ航空宇宙センター(DLR)で開発されました。


電波科学装置 (RISE)

電波科学装置

電波科学装置 (Photo: NASA/JPL-CALTECH)

電波を使って、火星の極運動を調べます。

地球もそうですが、火星も極(北極・南極)は微妙に動いています。これを極運動(wobble)といいます。
極運動の原因は様々です。例えば地球の極運動は月の引力による部分が大きいとされています。
かつての火星着陸機、バイキング着陸機やマーズ・パスファインダーにより、火星にも約1火星年(地球の日数で約687日)周期の極運動が存在することがわかっていますが、その大きさなどははっきりとわかっていません。

電波科学装置では、地球から送られてくる電波を極めて精密に測定することで、まず着陸点の位置をこれまた極めて精密に定めます。その上で、着陸機の位置のごくわずかなズレを観測することで、火星自身のごくわずかな動きを検出します。これによって極運動の大きさを明らかにすることを目指します。

また、このような極運動は、火星の内部構造にも影響されています。例えばゆで卵のような物体を回したときと、中身が詰まっている物体を回したときでは、ものの触れ方は若干異なってしまいます。つまり、極運動を精密に調べることで、火星の中身…特に、火星の中心にあるコア…がどのくらいの大きさで、どのくらいの重さなのかがわかります。大きさと重さから、構成している物質などについても推定ができます。
火星のコアの有無や大きさ、構成物質を調べることで、火星の磁場がなぜいま存在しないのか、かつてあったとすればどのようなものだったのかなど、コアについての様々な事柄がわかると推定されます。


「すべては火星内部構造探査のために」

インサイトは大きさが探査機だけで358キログラムと、これまでの多くの火星探査機に比べても格段に小さなものです。そのため、測定装置として持っていける装置は3種類に限られてしまいました。しかし、これら3種類は火星の内部構造解明のために必須かつ強力なデータを提供できる装置で、「少ない観測装置で大きな科学的な成果を得る」という目的にかなったものになっています。

また、それぞれの観測装置が得たデータを組み合わせることで、火星内部について多くのことがわかります。
地震計のデータからコアの大きさを推定し、それを電波科学装置のデータと比べることで、火星のコアの大きさがどのくらいなのかを精密に知ることができると期待されます。熱流量装置は地震計との組み合わせで内部構造解明につなげられるかもしれません。

かつて日本は、月の内部構造探査を目指した月探査計画「ルナーA」を計画していました。こちらは着陸機ではなく、月に突き刺さる観測機「ペネトレーター」を使用したものでしたが、月の地震(月震)と熱流量計を用い、月の内部構造を調べることを考えていました。結局ルナーAは開発の遅れから中止されましたが、その考え方はそのままインサイトへと受け継がれています。
また、電波科学装置の考え方は、月探査機「かぐや」に搭載された3種類の電波科学観測(この3つの機器の総称は、同じ「RISE」です)に似たところがあります。

このように、インサイトは、その小さな探査機の装備のすべてを「火星内部構造探査」のために使っている、といえるでしょう。
史上初の火星内部構造探査機、いや、天体の内部構造探査だけを目指した探査機としては史上初の探査機(ルナーAが実現していればこちらが初となったはずですが)がどのような成果を出し、それがこれまでの火星探査機の成果、そしてこれからの火星探査計画にどのような影響を与えるか、見守っていきましょう。


参考資料


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