■アラブ首長国連邦によるはじめての火星探査

アル・アマルは、アラブ首長国連邦(UAE)が初めて実施する火星探査、そして月・惑星探査計画です。中東全体でも、月・惑星探査機の打ち上げははじめてとなります。
2021年はUAEの建国50周年に当たります。そのため、2021年の火星への着陸は、建国50周年を祝う形になります。なお同じ建国50周年イベントとして、2020年にUAEのドバイで万国博覧会の開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年に延期となりました。本来であれば万博期間中に打ち上げを見ることができたのですが、それはかなわないこととなりました。

アラブ首長国連邦は、以前から宇宙開発に関して熱心でした。人工衛星開発を行う一方、月・惑星探査にも興味を持ち続けてきました。2017年には、火星に100万人が住む都市を100年後の2117年に作るという計画「マーズ2117」を発表しています。

UAEを含めた湾岸諸国は、将来的な石油枯渇、あるいは化石燃料からの転換の可能性を踏まえ、石油に頼らない経済構造を作り上げることを模索しています。その中でUAEは技術への投資を進めようとしており、宇宙開発もその流れの中に位置づけられるものと思われます。

■探査機自体はシンプルな構成、確実な成功を期する

アル・アマル探査機の本体は立方体の形状をしており、大きさは2.37メートル×2.9メートル、重さは1500キログラムとなっています。これは、火星周回機としてはやや大きめのサイズで、これより大きいものとしてはマーズ・リコネサンス・オービターやメイバンなどがあります。600ワットの発電能力を持つ太陽電池を搭載し、本体及び内蔵の科学機器に電力を供給します。

注目すべきなのはその搭載機器です。アル・アマルは、カメラ、紫外線スペクトロメーター、赤外線スペクトロメーターという3種類の科学機器しか搭載していません。この探査機より小さなインドの火星探査機「マンガルヤーン」が5種類の観測機器を搭載し、同じくこの探査機より小さなヨーロッパのマーズ・エクスプレスが8種類の科学機器を搭載していることに比べると、非常にシンプルな探査機の構成になっていることが伺えます。

国家初、あるいは中東発のミッションということで、たくさんの機器を詰め込んで大量の科学成果を最初から狙うよりは、まずは確実に火星探査を成功させ、その後につなげていこうという意思が伺えます。

なお、アル・アマル搭載の科学機器は、カメラが地表の観測、2種のスペクトロメーターが火星大気の観測に用いられる予定となっており、この目標自体もシンプルかつ選び抜かれたものと考えられます。

■2020年7月に日本のH-IIAロケットで打ち上げ

アル・アマルは日本とも深い関係があります。
アル・アマルは2020年7月20日(当初予定は15日だったが天候不順のため延期)に日本のH-IIAロケットで打ち上げられました。H-IIAロケットが海外の月・惑星探査機を打ち上げるのははじめてのケースです。また、H-IIAロケットが火星探査機を打ち上げるのもはじめてです。
UAEと日本はかねてから親密な関係を築いてきました。それは、UAEが石油の重要な輸出国でもあるということがありますが、日本は農産品の輸出をはじめ、科学技術分野でもUAEとの協力関係を続けています。今回日本のH-IIAロケットが打ち上げに使われるのは、その協力関係の一環でもあるといえましょう。

アル・アマルは順調に飛行し、2021年2月9日、火星に到着しました。


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