1979年の打ち上げから30年以上が過ぎ、2機のボイジャー探査機は、いずれも太陽系の縁の部分へとたどり着きつつあります。そして驚くべきことに、この2台の探査機はいまだ健全で、ちゃんと動作をしているのです。
探査機は、毎日毎日地球に科学者を驚かせるような情報を送ってきています。1972年以来、ボイジャーの探査科学者として勤務するカリフォルニア工科大学のエド・ストーン氏は、「(その情報は)神秘的ですらある。ボイジャー探査機には、そういう情報を発見する才能があるのではないか。」とまで語っています。
2機のボイジャー探査機は、太陽系の外惑星が、たまたまほぼ一直線に並ぶという珍しい機会を捉えて行われました。通称「グランドツアー」と呼ばれるこの大いなる旅で、ボイジャー1号は木星と土星を、ボイジャー2号は木星、土星に加えて天王星、海王星をフライバイ。いまだに、天王星、海王星を直接探査したのは、このボイジャー2号だけです。
ストーン氏に、ボイジャーによる数多くの発見の中からいちばんすごい発見が何かを尋ねたところ、彼はしばらく考え込んでしまいました。選ぶべきものが少ないからではなく、あまりにも多くのすばらしい発見があったからです。
例えば、木星の衛星イオにおける活火山の発見(編集長注: 当時としては、太陽系では地球以外にはじめて発見された活火山でした)、木星の衛星エウロパの地下に海があることを示唆する証拠の発見、土星の衛星タイタンにメタンの雨が降っている可能性があることを示す証拠の発見、天王星と海王星の磁場が異様にひっくり返っていることの発見、海王星の衛星トリトンにおける氷の間欠泉の発見、太陽から離れるにつれて、惑星間風がより強く吹き付けていることの発見、などなど…
1980年に、ボイジャー1号は、土星の重力を利用して太陽系の惑星などが回る平面を離脱、1989年にはボイジャー2号が海王星の重力を利用して同様に離脱を行いました。いま、両機は何もない虚空を突き進んでいます。
こう書くと何も発見もない退屈な旅が続いているように思われるかも知れませんが、実は発見はいまでも続いているのです。
ストーン氏は、そのことを、流し台を例えにしてこう説明しています。「蛇口を開いてみよう。水が流し台を叩く。これが太陽だ。水はそこから放射状に広がって流れていく。これが太陽風だ。注意して欲しいのは、太陽がその周りに『泡を吹き出して流し出している』ということである。」
この泡が流れていく範囲を、宇宙空間(太陽系空間)では「太陽圏」と呼んでいて、それはまさに非常に広大な領域になります。太陽からのプラズマと磁気圏によって形作られているこの領域は、冥王星の軌道の3倍くらいも広大な領域で、すべての惑星、小惑星、人類がこれまで打ち上げたすべての探査機、そして太陽系におけるすべての生命が、その中に含まれているのです。
ボイジャーはいま、太陽圏を脱出しようとしていますが、まだその縁には到着していません。では、それはどこなのか。ストーン氏は再び、流し台の例えに戻ります。「水(太陽風)が広がっていくとき、その先の方はだんだん薄くなっていく。そして、もうそれ以上は進めない、という場所が出てくる。そして突然、ゆっくりとした渦を生じる場所が出てくる。これが太陽圏辺縁域(heliosheath)と呼ばれる場所で、ボイジャーはいま、そこにいる。」
磁気圏の泡に囲まれた太陽圏辺縁域は不思議な場所で、もちろん未だかつてここにたどり着いた探査機はいません。低周波の電波だけが響き渡り、太陽は遠く輝く点のような明かりでしかありません。
ストーン氏によると、これまで考えられていたモデルに比べて、実際の太陽圏辺縁域の様子はずいぶん違っているということです。
2010年6月、ボイジャーからの信号に奇妙なものが記録されていました。それは、太陽風の速度なのですが、その速度が「0」を示していたのです。誰も太陽風が止まってしまっているなどということを考えすらしませんでした。ついに太陽圏脱出か…? しかし、どの方向へ? ボイジャー1号は、自分自身を風見鶏として探査機を動かすことにより、太陽風の「風向」を知るという作戦に出ています。そして、ともかくも何らかの「動き」はあるようなのです。
実際にボイジャー1号があとどれくらい旅をすれば、真の恒星間空間に出ることができるのか、その答えは誰も知りません。ですが、多くの研究者は、もうそろそろだと考えています。ストーン氏によると、太陽系辺縁域の広さは幅50~60億キロメートルくらいと考えられ、ボイジャー1号の速度であれば5年ほどで旅してしまえるということです。
その旅を支えるための動力(電力)はまだ十分に残っています。ボイジャーはプルトニウム238を利用した原子力電池で動作していますので、太陽光がない領域でも電力を確保することができます。少なくとも基幹システムについては2020年まで動作させることが可能です。
そのあとは、「星々への親善大使として、静かに飛行を続けることになるだろう。」(ストーン氏)
星々への親善大使、とのことですが、ボイジャー探査機で有名な「装備」が、探査機に搭載されている金色のレコードです。この金色のレコードは、実際に金でコーティングされています。記録されているのは、写真が118枚、世界中の音楽が90分、「サウンド・オブ・アース」と題された地球の音のまとめ(温泉の泥がぼこぼこと沸く音や、犬の鳴き声、さらにはサターンV型ロケットの発射の音声まで)、55の言語及びクジラの鳴き声による挨拶の言葉、恋する若い女性の脳波、国連事務局長による挨拶などです。高名な惑星科学者であり、このボイジャー計画にも参画していたカール・セーガン博士の発案及び編集により、ひょっとしたら出会うかも知れない地球外文明へのメッセージとして、このアルバムがレコーディングされたのです。
「いまから10億年後…地球上の私たちの創作物ものがすべてちりと化し、大陸の配置も想像もできないほど変わり、人類というものが私たちが考えられないほど進化するか、あるいは絶滅してしまったとしても、このレコードは私たちに物語を語ってくれるだろう。」これは、カール・セーガンとその妻、アン・ドルーヤンが、このレコードをCD化した際の解説に書いた言葉です。
宇宙人がいつか、この金色のレコードを見つける確率はとてつもなく小さいと考える人が多いようです。実際、地球にいちばん近い恒星にボイジャー探査機がたどり着くにはあと約4万年かかります。そんな中で、地球外文明に出会えると考えていいのでしょうか?
しかし、では、この地球上に、感性というものを持つ霊長類が発生し、それが探査機というものを作り上げ、犬の鳴き声をその中に収めて宇宙へと飛ばそうと考える、その確率はどのくらいでしょうか。「かも知れないことを考える」、そのことが重要なのです。
・JPLの記事 (英語)
http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2011-128