ここ2〜3年、太陽系のへりの部分に到達し、太陽系脱出が文字通り「秒読み」となっているボイジャー1号についての最新情報が入ってきました。現時点でボイジャー1号は太陽から180億キロ(記事末尾の編集長注参照)離れた距離を飛行していますが、どうやら太陽系脱出の瞬間がさらに近づいてきた模様です。

6月27日発行の科学雑誌「サイエンス」に掲載された論文により、このことが明らかにされました。今回、ボイジャー1号のデータを分析した研究により、ボイジャー1号が現在飛行している、太陽圏の辺縁領域についての詳細が明らかになりました。この辺縁領域、すなわち太陽系のへりの部分は、いってみれば太陽の周りの「泡」のような領域であり、恒星間空間との境界面となっています。
今回発表された論文は合計で3本ありますが、その中では、「磁場ハイウェイ」と呼ばれる領域にボイジャー1号が入ることにより、これまでで最も多い量の荷電粒子を観測することができ、これらは太陽圏の外からやってきたものとみられるとのことです。また、太陽圏の内側、すなわち太陽の方向からやって来る荷電粒子はほぼ消滅してしまっているとのことです。

これまで、ボイジャー1号は太陽系を間もなく脱出するとみられてきましたし、現実にその状況にあります。しかし、太陽系には地球上の国境のように境界線があるわけでもありませんので、太陽系を脱出したかどうかは、ボイジャー1号が測定する各種のデータをもとに科学的な判断を行うことが必要となります。科学者が判断する「太陽系脱出」の根拠は3点ありますが、そのうちすでに2点が観測されています。

  1. 太陽系の磁場が縮小することによって、荷電粒子の観測量がゼロとなる。
  2. 太陽系外からやって来る宇宙線の観測量が増大する。

問題は3つめの兆候がまだ観測されていないことです。これは、観測される磁力線の方向が急激に変化することで、探査機が太陽系の磁場領域を離れ、恒星間空間の磁場領域に入ったことを意味するものです。

科学者は、ボイジャー1号があとどのくらい進めば恒星間空間に入るのか、正確な数値をまだ知りません。あと数ヶ月とも考えられますし、あるいは数年かかるかも知れません。太陽圏空間は惑星が存在する空間の外、130億キロにわたって広がっており、太陽による磁場の領域、そして太陽から放射される太陽風による荷電粒子に満ちた領域です。この太陽圏を出ると、太陽の「支配」を離れた恒星間空間に入るわけですが、そこは太陽以外の他の構成からやってきた物質や磁場などが存在します。

ボイジャー1号計画に参加している科学者であるカリフォルニア工科大学のエド・ストーン氏は、「恒星間空間に入る前の最後の不思議な領域が研究対象に入ってきた。ボイジャー1号は人類が作った最も優秀な尖兵である。もし宇宙線の量と荷電粒子のデータとが分かれたら、その時点でボイジャー1号は太陽系を離れ、恒星間空間に入ったと判断してよいだろう。ただ、ボイジャー計画のチームとしては、探査機がまだ太陽の磁場が支配する空間内にいることから、そこまでには到達していないと考えている。」と述べています。

2012年の5月から9月にかけて出版された「サイエンス」のボイジャー1号に関する論文では、探査機が観測した宇宙線や、低エネルギー荷電粒子、磁場観測のデータを分析しており、それによると、この年の4月には荷電粒子が多少増えたことがわかっています。

ボイジャーは、1号と2号があります。共に1977年に打ち上げられ、木星、土星を探査。ボイジャー2号はさらに、天王星と海王星を探査しました。1990年からは「恒星間空間探査ミッション」を実行することとなり、太陽圏の大きさを測定するための観測を行っています。
ボイジャー2号の方は太陽から150キロのところを飛行しており、現在もまだ太陽圏空間内にいます。
ボイジャー1号がいる「磁場ハイウェイ」と呼ばれる領域は、恒星間空間へとつながる領域とされており、ここでは荷電粒子が太陽圏空間と恒星間領域の中を行き来することができる通路(=ハイウェイ)となっています。この領域では、死にゆく星から放射される低エネルギーの宇宙線を観測することに成功しています。

ボイジャー1号に搭載されている低エネルギー荷電粒子測定装置の主任研究者である、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のスタマティオス・クリミギス氏は、「すでに、太陽からやってきたと思われる荷電粒子が、劇的、かつ急激に減少していることを確認している。その減り方は1000分の1というすごいものである。まるで、磁場ハイウェイの入り口に巨大な真空ポンプが据え付けられ、荷電粒子を全部吸い取ってしまったようなものである。こんな現象は、34年前、ボイジャー1号が木星をフライバイした際に、木星の磁気圏を通り過ぎた際にしかみたことがない。」と若干興奮気味にコメントしています。

ボイジャー1号が観測した他の荷電粒子の状況からも、探査機は恒星間空間への途上にあると推定できます。恒星間空間に入る場合には、太陽圏空間からやってきた荷電粒子は急激に減少するわけですが、太陽圏磁場の磁力線の方向に沿って動いている粒子は急激に減るものの、それに垂直な方向に向かって動いている粒子はそう急激には減少しません。一方、太陽圏磁場の磁力線の方向に沿って、「磁場ハイウェイ」の方向から入ってくる宇宙線は、垂直方向のものに比べて量が多くなるとみられています。恒星間空間に入れば、このような荷電粒子の動きというのはまったく関係がなくなると考えられています。

24時間積算量でみると、太陽からの磁場の強さは強くなり始めているのですが、これはちょうど、高速道路の出口で、先頭がふさがれているために車が本線にまで連なっている状況と似ているのではないかと考えることができます。しかし、科学者によれば、磁力線の方向はわずか2度しか変化していないとのことです。

今回の論文の筆頭著者の1人でもあるNASAゴダード宇宙飛行センターのレオナルド・バーラガ氏は、「確かに、磁場の強さは突如2倍にもなってきており、それがまた非常に平坦なデータとして観測されている。しかし、磁場の方向の変化はほとんど観測されていない。なので、私たちが見ている磁場データは、太陽圏に由来するものと考えてよい。」と、冷静に分析しています。

これまでも、「ボイジャー1号がついに太陽系の領域を離れたのではないか?」というようなレポートが出されたこともあります。しかし、この記事をお読みになればわかるように、太陽系を脱出したかという判断は複数の科学データに基づいて慎重に行われる必要があります。もうあと少し、というところに来ていることはわかりますし、「ついに脱出!」という吉報(?)を早く知りたいという気持ちは私(編集長)を含め多くの人が抱いているとは思いますが、ここはもう少し辛抱して、じっくりとボイジャー1号の旅を見つめていきたいと思います。いずれにしても、もうほんのわずか(ただし宇宙的スケールで)で、ボイジャー1号は、人類が作った機械としてははじめて、母なる太陽の領域を離れたものとなるわけですから。

(編集長注)地球からですと杓子定規に計算すれば178.5億キロとなりますが、太陽と地球との距離(約1億5000万キロ)に比べれば、いまのボイジャー1号と太陽との距離はあまりに離れているので、地球からも180億キロと考えて問題はありません