木星、土星の探査を終え、太陽系から遠ざかり、いよいよ脱出しつつある惑星探査機ボイジャー1号は、このほど太陽系の縁の新たな領域に入った模様です。科学者によれば、ここは太陽系を離れ、恒星間空間へと入るための最後の領域のようです。
科学者は、この領域のことを「荷電粒子の磁気ハイウェイ」と呼んでいます。なぜかといいますと、この領域では、太陽からの磁場の磁力線が、恒星間空間の磁力線とつながっているからです。私たちの太陽圏(太陽の勢力が及ぶ範囲)から出てくる低エネルギーの荷電粒子は、ここで一気に広がっていき、逆に恒星間空間からの高エネルギーの荷電粒子がここから入ってきます。また、荷電粒子がこの領域に入ってくると、あたかも道に迷ったかのようにこの領域に捉えられてしまうことがわかっています。
なお、荷電粒子とは、電気を帯びた粒子(原子や素粒子)のことで、通常は高速で宇宙空間を飛んでいるためにエネルギーを持っています。また、電気を帯びていることから、その運動は磁場の影響を受けます。
ボイジャー探査機のチームは、この領域はまだ太陽系の中であると考えています。なぜかというと、磁力線の向きは太陽系内と変わりないからです。もしボイジャー探査機が捉える磁力線の向きが変化すれば、それが太陽系空間脱出の確証となるはずです。
このほど、ボイジャー探査機についての最新の動向が、サンフランシスコで開催されているアメリカ地球物理学会の総会で発表されました。それによると、今のところボイジャー1号はまだ太陽系の中にいるものの、恒星間空間の影響を受け始めているということです。観測された荷電粒子の様子をみると、この「磁場ハイウェイ」を外向き、内向きに動いている様子がわかっています。「まちがいなく、恒星間空間への最終行程に来ているようだ。私たちの最良の推測では、(太陽系脱出までには)早くてあと数ヶ月、遅くて数年というところだろう。この新しい領域は私たちが知らなかったものだが、私たちはボイジャーから、常に未知なるものを知ることに慣れっこになっている。」(ボイジャー計画の科学者であるカリフォルニア工科大学のエドワード・ストーン氏)
2004年12月、ボイジャー1号が太陽圏の外側にある末端衝撃波面を通過して以来、探査機は太陽圏の外側の領域をずっと飛行してきました。この外側領域のことはヘリオシースと呼ばれています。ここでは、太陽から吹き出る太陽風が急激に減速させられ、乱流となっています。ボイジャー1号が観測している状況は、5年半にわたって変化がありませんでした。そしてその後、太陽風の外向きの速度が、非常に遅い、ないしはゼロという状況になってきています。
さらに、磁場の強さも少しずつ強くなってきています。
ボイジャー1号に搭載されている荷電粒子計測器のデータをみる限りでは、ボイジャー1号がこの「磁場ハイウェイ」に入ったのは2012年の7月28日とみられています。この領域の強さは次第に衰えていき、ボイジャー1号の方に向かって来ました。再び領域が強くなってきたのは8月25日で、それ以降、安定した強さを保っています。
ボイジャー1号に搭載されている低エネルギー荷電粒子計測器の主任科学者である、ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所のスタマティオス・クリミギス氏は、荷電粒子のデータだけからだったら、すでにボイジャー1号が太陽圏外に脱出したと考えていただろうとし、次のように語っています。「測定器のデータが何を私たちに語りかけているのか、考える必要があった。私たちのこの太陽圏外の縁についての解釈が正しいのかどうかは、結局は時間が判断することになるだろう。」
ボイジャー1号が「磁場ハイウェイ」領域に入るたびに、磁場の大きさは強くなってきています。しかし、それでも磁力線の向きは変化していません。
NASAゴダード宇宙飛行センターの科学者で、ボイジャー探査機の磁力計のチームメンバーであるレオナード・バーラガ氏は、「私たちは今まで経験したことがないような磁場領域にいる…末端衝撃波面を通過したときより10倍も強い磁場なのだが、磁場のデータをみる限りでは、ボイジャー1号が恒星間空間に入ったということを示唆する証拠はない。磁場のデータは、私たちが末端衝撃波面を通過したかどうかを最終的に確定する証拠になった。同じように、恒星間空間に入ったかどうかを確定するのも、磁力計のデータだと信じている。」と述べています。
ボイジャー1号は1977年に打ち上げられ、現在では地球から最も離れた人工物体となっています。現時点での太陽からの距離は180億キロメートル、地球にボイジャー1号の信号が届くのには片道17時間もかかります。一方、ボイジャー2号の方は、最も長く連続して運用されている探査機で、太陽から150億キロメートル離れたところを飛行中です。ボイジャー2号も、先行するボイジャー1号と似たような変化を観測していますが、その変化の内容はよリ穏やかなものであり、科学者たちはボイジャー2号については、「磁場ハイウェイ」に到着したとは考えていません。
・NASAのプレスリリース (英語)
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/dec/HQ_12-416_Voyager_New_Region.html