太陽系を脱出し、今や星間空間を飛び続けている惑星探査機「ボイジャー1号」。1977年の打ち上げから36年あまり、いまだ通信ができ、機能を保っているのも驚きですが、そんな中心配なニュースが入ってきました。ボイジャー1合に搭載されているコンピューターに不具合が発生、復旧にはかなり長い時間が必要となると、NASAジェット推進研究所(JPL)が発表しました。

恒星間空間を飛行するボイジャー探査機の想像図

恒星間空間を飛行するボイジャー探査機の想像図
Photo: Caltech/NASA-JPL

ボイジャー1号・2号は、木星・土星・天王星・海王星など、外惑星を順々に探査することを目的として、1977年に打ち上げられました。1号は木星及び土星、2号は木星・土星・天王星・海王星を探査し、探査機が撮影した鮮やかな外惑星の姿はまさに社会的にも大きな影響を与えました。また、木星の衛星イオの火山の発見や土星の輪についての詳細な調査など、科学面にも大きな発見をもたらしました。
外惑星探査が終了したあと、両探査機とも太陽系の外を目指して飛行しています。ボイジャー1号は2012年に「ヘリオポーズ」と呼ばれる、いわゆる太陽系とその外(恒星間空間)の境目に到達、さらに飛行を続けています。ボイジャー2号は2018年にヘリオポーズを通過しました。現在(12月15日)現在の地球からの距離は、ボイジャー1号が162.38天文単位(約243億5930万キロメートル)、ボイジャー2号が約203億6077万キロメートルと、人類が作り上げた物体として地球から最も遠くを航行しています。

ボイジャー探査機には、メインのデータ処理を行うコンピューターが3台搭載されています。このうち、フライトデータシステム(FDS)と呼ばれるコンピューターに故障が発生したとのことです。
探査機は地球からの指令(コマンド)を受信し、その指示を実行できていますが、データを送り返せていない状態です。そのため、ボイジャー1号が取得した科学データが受信できていないということいなります。

原因は、探査機のサブシステムの1つである、テレメトリ変調ユニット(TMU)とFDSが通信できていないことが原因です。
ボイジャー探査機の運用チームは原因を特定し、FDSを再起動することで問題を解決しようとしましたが、現在でも問題は解決できていません。

この問題の解決、…解決策をみつけるために、まず数週間かかるとJPLでは見積もっています。
まずなにしろ、1977年というはるか昔に打ち上げられた探査機ですから、コンピューターなどの細かい情報については、当時の古い文書をあたる必要があります。それだけでも時間がかかるのは想像できそうです。
もちろん、この問題を解決する方法を検討する上で、探査機の他の部分に問題が発生しないことも確認しなければなりません。

さらに解決策が策定できたとしても、探査機に解決策を送る(具体的にはソフトウェアのアップデートを送信する)のにも時間がかかります。相手は200億キロを越えたところにいます。
ボイジャー1号がいま飛行している243億キロ先にアップデートを電波で届けるためには、片道だけで実に22時間30分もかかります。電波でもほぼ1日がかかりというとてつもない遠さです。もちろん、それが成功したかどうかを今度は探査機から受け取るためにまた同じ時間かかります。
さらに、あまりにも遠方になるため、通信できる速さもぐんと遅くなります。もともと1970年代の電子機器で作られた探査機ですし、一連の手順に非常に時間がかかることがおわかりいただけるかと思います。

それでも、ボイジャー1号を復旧させようとする運用チームの努力には、本当に頭が下がります。
ボイジャー1号は原子力電池(原子力発電と違い、放射性元素の崩壊熱で動く電池)で動いていますが、こちらもだんだんと出力が下がっており、2030年ころまでもつかどうかが微妙というところです。すでに科学機器も多くは停止されており、最小限の電力だけで動かしています。ここまで動いてきたこと自体が称賛に値するといってもよいでしょう。
ボイジャー1号の復旧を、急がずゆっくりと待ちたいと思います。