昨日は山に興奮し、今日は平原に驚嘆する。ニューホライズンズから送られてくる冥王星の最新画像には、宇宙に興味がない人でも興味をそそられてしまうほどの魅力と迫力があるように思えます。
NASAは18日、探査機ニューホライズンズが撮影した最新画像を公開しました。この撮像領域は、すっかり有名になった冥王星の「ハート領域」、通称「トンボー領域」と仮に名付けられた領域の中央部にあり、「スプートニク」領域と仮に名付けられています。スプートニクとは、旧ソ連が打ち上げた世界初の人工衛星「スプートニク」にちなんだ名前です。
今回撮影された場所は、「ハート型領域」のちょうど中央部で、まさに「ハートのハート(中心)」ということになります。先日公開された高い山などがある場所からは北西側にあたります。
「トンボー」という名前は、冥王星を発見した天文学者、クライド・トンボーにちなむものですが、まだこれは非公式な名前です。公式な名前は最終的に、国際天文学連合(IAU)が決定します。
また、この画像はよくみるとまるで上空から田んぼをみたかのような四角い模様が並んでいますが、これは画像圧縮により生じたものと思われます。私たちがデジカメなどでよく使う画像フォーマットのJPEGは、四角い単位で画像を圧縮していくのですが、今回はおそらく非常に強力な(つまり圧縮率の高い)圧縮をかけたため、あまり特徴がない部分に四角い模様がみえてしまったのでしょう。
つまり、本当に特徴のない平原が写っていた、ということになります。
クレーターくらいもありそうなものですが、それらしい地形も見つかりません。クレーターが見つからない、ということは、地形がごく最近できたということです。クレーターがたくさんあれば、古い地形がそのまま残っていることになりますから、その逆を考えればいいわけです。おそらく1億年くらいの(まぁ、地質学的な感覚で「最近」であって、私たちの感覚では決して最近ではありませんが)地形ではないかと考えられます。
先日の高い山などもそうですが、冥王星では何らかの地質学的なプロセス(力)が働いていて、表面の地形を更新しているようです。決して死んだ星ではないということは、この平らな地形をみてもわかるのです。
プロジェクトチームの地質学者も頭を抱えています。このブログでもすっかりおなじみとなった、ニューホライズンズチームの地質学・地球物理学・撮像チームの科学者で、NASAエイムズ研究センターのジェフ・ムーア氏も、「この平原(の成因)を説明するのは難しい。広大でクレーターがなく、非常に若いと考えられる平原が冥王星に存在するというのは、フライバイで考えていた私たちの想像をはるかに超えるものである。」と語っています。
また、この写真では一面に割れ目(と思われる境目)が存在しています。この割れ目は、ちょうど乾いた泥の地表にできる割れ目のような感じでして、それぞれの割れ目は20キロメートルほどの大きさのようです。写真から、それぞれの割れ目はそれほど深くないことがわかります。
周りより暗い物質が存在する割れ目もありますし、一方ではそのまま丘みたいなものが連なる領域へと続いているものもあります。平原領域には小さな穴のようなものが多数空いている地域もあります(圧縮が強すぎて見えにくいのですが)。このような穴はおそらくは昇華(固体から直接気体になってしまうこと)によって生じたのではないかとみられています。ちょうど、ドライアイスの白い塊から白い煙が出て、次第になくなっていく様子を思い浮かべてください。あれが昇華です。
とにかく、なぜこのような地形ができたのかを、科学者は説明しなければなりません。まず、不規則な形になっている理由は、この氷の領域が縮小してしまったために起きたのではないかと考えられます。ちょうど、乾いていく泥の平原で割れ目ができるのと同様の理由です。あるいは、地下から何らかの物質が上昇してきていることを示しているのかも知れません。冥王星では、このような物質の上昇は、表層部、特に一酸化炭素やメタン、窒素などの氷でできている上層部で起こり、そのエネルギー源は冥王星内部にわずかに残る熱ではないかと考えられます。
また、この平原には黒い筋が溝とほぼ平行に走っている場所もあります。この筋は長さが数キロメートルほどあり、溝に沿っていることから、冥王星の大気中の風によって物質が溝に沿う形で流れたものと推定されます。
ニューホライズンズの大気観測チームによれば、冥王星の大気は表面から1600キロメートル(1000マイル)の高さまで存在し、主成分は窒素のようです。270キロ以上の高さの大気を観測したのは今回がはじめてです。
「冥王星をバックミラーにみながら、長い旅は終わりを迎えたようではあるが、科学解析は今やっと始まったばかりだ。ニューホライズン探査機に今も格納されたままになっているデータは、何年にもわたってこれから科学を牽引することになるだろう。」(NASA本部の惑星科学部門長、ジム・グリーン氏。なお「旅は終わり」とありますが、実際にはこのあとカイパーベルト天体へのフライバイを行う可能性もあります)
「私たちはまだ、冥王星のほんのちょっとの部分を垣間見ただけに過ぎない。ただ、間違いなくいえることは、この太陽系探査の旅において『おいしいものは最後にとってあった』ということだろう。」(ニューホライズンズのプロジェクトマネージャー、アラン・スターン氏)
- NASAのプレスリリース