水星探査機メッセンジャーは、4月4日(アメリカ現地時間)よりいよいよ、水星周回観測を開始します。1年にわたるこの観測期間中に、メッセンジャーは水星を合計で700周以上周回し、各種観測を実施します。
ちょうど本日終了した周回探査準備段階において、すべての機器が正常であることが確認されています。「水星の過酷な環境にもかかわらずすべての機器は順調に動作している。今日から始まる基本科学観測期間で、この惑星についての全球的な知見が数多く得られるだろう。さらにいえば、太陽活動が活発化すれば、私たちは砂かぶり席でそれをみることができるわけだ。」と、メッセンジャーの探査責任者であるシーン・ソロモン教授は述べています。
メッセンジャーの1年にわたる周回観測期間は、2水星日(1水星日はほぼ176日)をカバーします。このように水星の自転が遅いことから、ある地点をある太陽高度の元で観測できるチャンスは、この基本観測期間中に1点につきわずか2回しかありません。そのため、到着前から、観測計画が入念に練られてきました。
科学観測をシミュレートするためのソフトウェア「サイボックス」により、各種の科学観測を最大限行いつつ、また観測機器同士の鑑賞や重複を最小限にするための工夫が行われました。データを取得するポイントや、地球との通信回線容量、探査機に搭載されているデータ記憶装置の容量など、すべてを満たさなくてはなりません。サイボックスは、こういった科学機器に関するすべての状況を計算し、最適な観測計画をはじき出してくれます。
例えば、一口に観測機器といっても、探査機に張り付いているもの(視野を独自に動かせないもの)と、首を振ることによって視野を動かせるものがあります(カメラは視野を動かすことができます)。こういった制約条件を観測に際しては互いにうまく満たす必要があります。
サイボックスは、このような各種の制約条件を満たしながら、また探査全体で観測がどれだけ達成できるのかを計算します。数千にわたる観測を毎週毎週計算し、どこに探査機搭載の機器を向ければいいのかを正確にはじき出してくれます。
しかし、観測計画は探査機が軌道のどこにいるのかによって決まります。従って、それが決められないうち…すなわち、探査機が水星軌道に投入されるまでは、その計画を探査機に送ることができませんでした。今週の機器運用計画は、先週探査機に向けて送信されたばかりです。
探査機の正確な位置を測定できたのは3月21日。観測開始まで2週間程度しかありませんでした。その間にすべての観測機器の状況を計算し、今日の観測開始にこぎ着けたというわけです。
例えば、今週の観測予定の中には、水星撮像システム(MDIS)での4196枚の撮像が入っています。MDIS担当チームはコマンドが正しいことを確認し、誘導制御チームはカメラをその方向に向けるための探査機の姿勢制御コマンドが正しいことを確認し、さらに探査機を維持するための各種コマンドを付け加えます(太陽電池の方向の制御や、スタートラッカーの方向維持など)。そしてチーム全体で最後にそれが正しいかどうかをシミュレートします。
これだけのことを毎週毎週行うのは大変な作業量になります。ですが、チーム全体ではこれを粛々とこなしているのです。
今後、周回観測においては、メッセンジャーのカメラは、フライバイで得られたよりもより精度の高い写真を送ってくることになるでしょう。この作業には、これだけの準備が必要になってくるわけです。
なお、メッセンジャーは水星を2地球日で1周します。その間に1日1回、観測をやめて姿勢を変更し、地球に向けてアンテナを向けてデータを送信します。
・探査チームの記事 (英語)
  http://messenger.jhuapl.edu/news_room/details.php?id=166
・メッセンジャー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/pex_world/MESSENGER/