先日5月1日(日本時間)に、水星に制御衝突を行ってミッションを終了したアメリカの水星探査機メッセンジャー(MESSENGER)ですが、ミッション期間中に得られた膨大なデータの解析はこれからも続きます。そんな中、このメッセンジャーのデータの解析から、水星の磁場はこれまで考えられていたより古い時期から存在していた可能性が高いことが明らかになってきました。

水星は、太陽系の固体惑星(水星、金星、地球、火星)の中で、地球とともに現在でも磁場を持っている惑星として知られています。磁場は、天体内部のコアが原因で発生します。地球の場合は、鉄やニッケルなどでできた液体のコア(外核)が運動することで、ちょうど発電機のようにして磁場が発生すると考えられています。
水星の場合にも、おそらく内部には液体の(鉄やニッケルでできた)コアがあり、これが磁場の発生源であると考えられています。
問題は、この磁場がいつくらいから存在したかです。それを調べることは、水星が現在のような内部構造になった時期がいつかを特定できる、重要な材料となります。

今回の発見は、メッセンジャーが衝突の前に飛行した際、高度をうんと下げて水星表面近くを飛行していた際のデータからもたらされました。通常、磁場、それも岩石に残されている昔の磁場の観測は、その表面に近ければ近いほど、いいデータが得られます。しかし、そのようなことをすれば、探査機自身が表面の重力に引っ張られて、表面に衝突するという危険も伴います。そこで、高度をうんと下げる飛行は、探査の最終盤に行われることが多いのです。月探査機「かぐや」でも、探査の最終盤では月表面わずか5キロ、あるいは20キロという高度で、特に磁場を集中的に調べるための観測を行っていました。

この観測によって、いまから40億年前には、水星の磁場がいまよりもっとはるかに強いものであったことが判明しました。高度15~80キロで飛行しながら、水星の古い地殻の磁場のデータを採取した結果、このことがわかりました。
今回のデータを解析した、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学地球物理学科の教授であるキャサリン・ジョンソン氏は、高度による磁場の減少を調べることで、磁化した地殻による磁場の痕跡をキャッチできたと述べています。
「過去の磁場のよって磁化した岩石は、惑星(水星)の進化を調べる上で重要な鍵となる。37~39億年前には、水星は活発な火山活動やテクトニクス活動があったことが明らかになっている。もし、低高度での探査を行わなかったら、今回の発見はなかっただろう。水星は私たちに、いまも自分の生い立ちを語り続けているのだ。」(ジョンソン氏)

この発見は、5月7日発行の科学雑誌「サイエンス」の論文として掲載されます。