先日のブログ記事でもご紹介した通り、土星探査機カッシーニがいよいよ、最後のミッション「グランドフィナーレ」へ挑むことになりました。
その最初の挑戦として、土星最大の衛星タイタンに再接近し、画像の撮影などを行いました。カッシーニ探査においてはもう何度もタイタンに最接近を行っていますが、今回の最接近が最後の最接近となります。いってみれば「カッシーニがタイタンと最後のお別れをする」最接近といえるでしょう。

4月17日に撮影されたタイタンの姿

「グランドフィナーレ」においてカッシーニ探査機により撮影されたタイタン。カッシーニは分厚い大気に覆われているため、全体にぼんやりと見えている。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

タイタンは土星最大の衛星で、太陽系でも有数の大きさを持つ衛星です。その大きさは直径が5150キロと、地球の月はもちろん、惑星である水星をも超えるという大きさを誇ります。
しかし、その表面は地球よりも分厚い大気に覆われており、表面の様子はなかなかわかりませんでした。しかし、カッシーニ探査機と共に土星に向かい、2005年1月にタイタンの分厚い大気をくぐり抜けて着陸に成功したホイヘンス探査機により、人類はその表面の様子をはじめて垣間見ました。そこには、柔らかいメタンあるいはエタンの氷でできた地面、一見地球の海のようにみえる風景…しかし、その海の成分はエタンやメタン…という、私たちがみたこともない不思議な世界が広がり、世界に衝撃を与えました。

今回のタイタンへの接近は、アメリカ太平洋夏時間で21日午後11時8分(日本時間では翌22日の午後3時8分)に行われ、探査機はタイタンの上空約979キロメートルを通過しました。

タイタン表面のクローズアップ写真

カッシーニが撮影したタイタン表面のクローズアップ写真。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

分厚い大気があるので写真ですとぼんやりとした衛星の姿しかみえませんが、カッシーニ探査機はレーダーも搭載しているため、大気を貫いて地面の様子をみる(というか「調べる」)、ということも可能です。
先ほど申し上げた、メタンやエタンといった炭化水素でできている海や湖(主に北極地域にある)などの様子などもレーダー観測データからより詳細がつかめるのではないかと思われます。
今回の写真撮影範囲は、すでにこれまで何度となく行われた接近で撮影された範囲ですが、実はレーダー観測ではまだ観測されていない領域です。そのため、レーダーでのデータはかなり貴重なものとなりそうです。
また、タイタンのレーダー観測チームは、今回はじめて、タイタンの湖の深さ、そして物質構成をレーダー電波から探るという試み(もちろん、最初にして最後になりますが)も行います。
また、以前のレーダー観測において見つかっていた、湖の上にある不思議な島、通称「マジックアイランド」(magic island)の観測も行われる予定で、その正体が明かされることが期待されます。

カッシーニ計画のプロジェクト科学者であるリンダ・スピルカー氏は、「タイタンはすでに後ろへと過ぎ去ってしまったが、私たちにはこれまでの観測の膨大な蓄積がある。これから、カッシーニが残したこの膨大なデータの解析が続くだろう。」と述べています。

カッシーニが撮影した三日月状のタイタン

カッシーニが撮影した三日月状のタイタン。撮影は2017年4月21日。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

今回のタイタン最接近は、「グランドフィナーレ」の幕開けともなるものです。実際、今回タイタンに接近することによって、タイタンの重力を利用してカッシーニ探査機は軌道を変更し、土星の輪のちょっとだけ外側を回る軌道へと移ります。また、タイタンの重力を利用した加速、いわゆる「スイングバイ」を実施したことで、秒速0.86メートルだけ速度を挙げています。
この先、グランドフィナーレでは探査機が22回、輪と土星のすき間へと「ダイブ」するということになります。最初のダイブ(輪の通過)はこの26日(今日です)が予定されています。この探査により、特に土星の大気についての詳細な観測ができることが期待されています。

カッシーニ計画のプロジェクトマネージャーであるジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏は、「このタイタン最接近によっていよいよグランドフィナーレが始まった。探査機は今や所定の軌道へ入ったが、この軌道自体は調整されていくものではない。もし我々が今後探査機の微妙な軌道調整を行ったとしても、探査機は予定通り9月15日に土星の大気へと突入するだろう」と述べています。

カッシーニ探査機はタイタンを離れ、一度遠土点(軌道が土星から最も遠くなる点)へ到達します。これはアメリカ太平洋夏時間で22日の午後8時46分(日本時間では翌23日の午後0時46分)です。ここからいよいよ、グランドフィナーレのメインイベント、輪と土星のすき間へのダイブが実施されます。
そしてまず最初の見どころは、アメリカ太平洋夏時間で26日午後2時(日本時間で翌27日の午前6時)に予定されている最初のダイブです。この間、探査機は地球と交信不能となります。しかも、途中には岩などが存在しており、探査機と衝突するかも知れません。さらにカッシーニは1997年に打ち上げられた(つまり1990年代の技術で作られた)探査機で、老朽化に伴う問題が出る恐れもあります。しかし、やってみるだけの価値はあるといえるでしょう。
探査機との交信が回復するのは、アメリカ太平洋夏時間で翌27日の午前0時5分(日本時間で同日午後4時5分)です。どのようなデータが受信されるか楽しみです。

カッシーニのグランドフィナーレを数字で表現したNASAのイラスト

カッシーニの最終ミッション「グランドフィナーレ」を数字で表すとこのようになるというNASAのイラスト。説明は本文を参照。(Photo: NASA/JPL-Caltech)

今後、カッシーニの最終ミッションは、探査機が土星に突入する9月15日まで続きます。このイラストにある内容を日本語に直しますと、

  • 土星の雲の中を通過する深さ…1628キロ
  • 土星の輪の通過回数…22回
  • 通過する土星の輪の幅…約2400キロ
  • 最高速度…時速12万3608キロ
  • 土星の大気を通過する回数…5回
  • 土星大気に突入してから通信途絶までの時間…1分

となります。
これから9月まで、カッシーニの最後の活躍により、私たちはどのような新しい風景をみることになるのでしょうか。
私たちはとりあえずまずは、VR映像でそれを楽しむことにしましょう。