いよいよ、土星探査機カッシーニの最後が近づいてきました。
カッシーニは、今日(9月15日)の午後7時32分(日本時間)、土星大気に突入して消滅する予定です。ただし、土星と地球との距離の関係から信号が届く(途絶する)までには約83分の時間差があります。そのため、地球上でその確認がとれるのは同じく日本時間で午後8時55分となります。
探査機の状態は全て正常で、軌道も予定通りの軌道を飛行しています。

カッシーニの「グランドフィナーレ」における飛行の想像図

土星の北半球の上空を飛ぶ、最終ミッション「グランドフィナーレ」を実施中のカッシーニ探査機の想像図。これはグランドフィナーレにおける22回めの降下の際の状況。(Photo: NASA/JPL-Caltech)

カッシーニは1997年10月に打ち上げられ、2004年6月末に土星に到着しました。打ち上げから20年、土星到着から13年という長期にわたって、土星本体や輪、衛星などの観測を行ってきました。その観測からは数多くの発見がありました。
しかし、そのミッションも今日で終わりです。カッシーニの残り燃料が少なくなってきたことから、探査機が制御できなくなり、例えば生命がいるかもしれない衛星エンケラドゥスへ衝突するといった事態を避けるため、あらかじめ決められた軌道を飛行させ、最後は土星大気に突入させて消滅させるという方針が取られました。
もちろん、「せっかく」衝突させるわけですから、探査も行います。カッシーニは最後の瞬間まで地球との通信を行い、土星大気などの様子を観測します。

土星大気への突入は、通信途絶の1分前、日本時間では午後7時31分です。土星大気は非常に濃いため、探査機はすぐに大気の強力な抵抗を受けます。カッシーニが土星大気に突入した際には、搭載されている制御エンジン(スラスター)を噴射し、カッシーニのアンテナが地球をできる限り向き続けられるようにします。最初の噴射は能力の10パーセント、そして1分後には(大気が厚くなることに応じて)100パーセント、つまり性能いっぱいまで噴射します。この時点で探査機は地球にアンテナを向け続けることができなくなり、通信は途絶します。

地球の方向からわずかにずれたとしても、通信はそこで途絶します。15億キロ離れた物体との通信はそこまで厳密、かつ冷酷なのです。おそらく、通信途絶は土星の雲の頂上部からさらに上、1500キロほどのところで起きるのではないかと考えられています。
探査機が土星大気に突入する速度は時速11万3000キロ、秒速に直すと約31キロという猛烈なスピードです。突入は土星の昼の側になり、位置は土星の北緯10度付近になる模様です。
その後の運命は…おそらく、大気との摩擦などによって熱せられ、まさに小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還したときのように、土星大気中で燃え尽きるとみられています。誰もその光景をみることはできませんが、その最後の瞬間まで、カッシーニは探査機としての役目を果たします。

NASAによると、カッシーニからの最後の信号は、まるで「こだま」のように太陽系内を伝わって地球に届くとのことです。カッシーニが消滅したあとも信号は太陽系内を伝わり続け、83分後に地球に到着します。カッシーニのプロジェクトマネージャーであるアール・メイズ氏は、「そのことがわわかっていたとしても、カッシーニがどのような運命にそのときなっていたとしても、信号が届いている限りは、私たちのミッションが終わったとはいえない。」と、淡々と、しかし科学者、技術者らしい冷静な発言をしています。

すでにカッシーニは最後の写真撮影を終了しており、また撮影した写真などを含む各種データは地球へと送られてきています。カッシーニが最後にとらえた土星やその衛星タイタンをご覧ください。
なお、すべてのデータは「未処理」、すなわち画像の処理などを施していない、送られてきたそのままのデータです。

カッシーニが最後に撮影した土星の輪の写真(その1)

カッシーニが最後に撮影した土星の輪の写真(その1) (Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

 

カッシーニが最後に撮影した土星の輪の写真(その2)

カッシーニが最後に撮影した土星の輪の写真(その2) (Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

 

カッシーニが最後に撮影したタイタンの写真

カッシーニが最後に撮影したタイタンの写真 (Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

カッシーニの土星大気突入時には、8つの科学機器での観測が実施されます。中でも注目されるのがイオン・中性ガス質量分析計(INMS)です。この装置は土星大気を直接採取し(繰り返しますが、探査機は秒速31キロで土星大気に突っ込んでいるのです。その中での観測です)、土星大気の成分を調べます。いうまでもありませんがこのような「直接観測」を土星周回軌道上から行うことはできません。まさに身を挺した観測といえるでしょう。
探査機はINMSがサンプルを採取しやすいように姿勢を制御して、大気サンプル採取に万全を期すとのことです。

「大気中で燃え尽きる」というと、私たち日本人は…私も含めて、あの「はやぶさ」の光を思い出します。今回のカッシーニの光(おそらく、花火のように明るく輝くでしょう)は、人類が誰も目撃することはありません。ですが、おそらく私たちの心の中では、カッシーニの最後の光がみえるかもしれません。最後まで人類のため、科学のために目的を果たす探査機、それは人間ではありませんが、私たちは感情移入してしまいそうです。
最後まで頑張ってほしい、そのように編集長(寺薗)も願っています。

カッシーニの土星大気突入のタイムライン

カッシーニの土星大気突入のタイムライン。点1つが10秒間隔で打たれている。左からカッシーニが突入し、最後の点のところで消滅する。(Image: NASA/JPL-Caltech)