20年間の探査の最後となるミッション「グランドフィナーレ」に挑んでいる土星探査機「カッシーニ」は、27日(アメリカ現地時間)、土星の本体と輪の間の空間を通り抜けるという探査を実施しました。これはグランドフィナーレにおいて特別に計画されたもので、これにより極めて近い位置からの土星本体や輪の観測が可能となります。カッシーニからはこれまでにみたこともない鮮明な土星本体の大気の写真など、極めて貴重な、そして私たちがはじめてみるデータが送られてきました。

カッシーニの「グランドフィナーレ」における飛行の想像図

土星の北半球の上空を飛ぶ、最終ミッション「グランドフィナーレ」を実施中のカッシーニ探査機の想像図。これはグランドフィナーレにおける22回めの降下の際の状況。(Photo: NASA/JPL-Caltech)

 

1997年に打ち上げられ、2004年から土星とその衛星の探査を続けているカッシーニは、燃料が残り少なくなったことから、今年9月に土星大気に突入させて探査を終了させる予定となっています。その最後のミッション「グランドフィナーレ」では、土星本体と輪の間のすき間部分に探査機を「ダイブ」(突入)させて、土星の大気や輪の様子を極めて詳細に探査することを計画しています。
この部分には、輪などを構成する小さな石や岩などが存在する可能性もあり、また探査機自体も打ち上げられてから20年も経過するなど老朽化の懸念もあり、ある意味極めて危険な「賭け」でもありますが、20年に及ぶ探査の最後に行う、そして最後を締めくくる探査としては最も適切ということで、このような大胆な探査が選択されました。
もちろん、カッシーニの探査としても、そして人類が行う(土星)探査としてもはじめての試みです。

グランドフィナーレでは、合計22回にわたる「ダイブ」が計画されていますが、この最初のダイブ(本体と輪の間の空間の通過)が26日(アメリカ現地時間)に実施されました。
通過しているときには探査機は大きなアンテナを進行方向(つまり、土星の下側)に向けるために地球との交信ができません。このような姿勢を取る理由は、上述のように、小さな岩や石などが万が一探査機に激突した場合でも、アンテナがある意味盾となって探査機自体の損傷を最小限に留める…だろう…という理由からです。
探査機からの通信は4月26日午後11時56分(アメリカ太平洋夏時間。日本時間では翌27日午後0時56分)に再度捉えられ、データはそのあと、27日午前0時1分(アメリカ太平洋夏時間。日本時間では翌27日午後1時1分)より地球に送信され始めました。ミッションは成功です。

NASAの惑星科学部門長のジム・グリーン氏は「長く正統たる探査の歴史において、カッシーニはまたもや、新たな道を切り開いた。今回の大胆な探査は、私たちの好奇心が導くところへ挑戦しさえすれば、新たな驚異と発見が待っている、ということを示してくれた。」と語っています。これは私(編集長)も、そう思います。

今回の「ダイブ」は、土星の北極から南極方向へ、土星本体と輪の内側にあるすき間の部分を通り抜ける(なので「ダイブ」という表現を英語では多用しているのですが、日本語でもう少し穏やかに「土星本体と輪の間を通過する」というふうにした方がよいかもしれません)ものです。
最も近いところでは土星の表面、より正確にいえば土星の表面に浮かぶ雲の表面(地球の大気圧と同じ1気圧のところ)から高さわずか3000キロメートルというところを通り抜けていきます。地球の人工衛星でも、例えば静止衛星は地球の表面から高さが3万6000キロメートルもあります。それを考えると、土星の「すぐそば」を高速ですり抜けるという表現は決して大げさではないでしょう。
さらに土星の輪の方向から考えると、いちばん輪の内側からはなんとわずか300キロというところを通り抜けます。この300キロという距離、人工衛星で考えますと、地球の表面から国際宇宙ステーションまでの距離とだいたい一緒です。本当にすぐ近くであることがお分かりいただけると思います。
この通り抜ける速度は、なんと時速12万4000キロメートル、秒速に直すと34.4キロというとんでもない速さです。小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還するとき、大気に突入した速度が秒速約20キロです。スペースシャトルの飛行速度は秒速7.9キロ。それに比べて、今回の探査機のスピードがいかにものすごいものであるかお分かりいただけるかと思います。
今回の通過ではミッションマネージャーはカッシーニは無事通り抜けると確信はしていたのですが、正直、どのようなデータが取れるかまでは想像できなかったようです。なにせ、はじめてのことですから。

「こんなに土星に近づいた探査機はこれまでになかった。私たちは、これまでの土星の輪に関する観測を下地にした経験に基づく予測を信じるしかなかった。土星の本体と輪の間がどのようになっているかは、そのようにするしか考えることができなかった。私は、カッシーニがこの本体と輪の間を事前に計画した通りに通り抜け、反対側に予定通り抜けることができたことを皆様にご報告できることを、大変うれしく思う。」(カッシーニ計画のプロジェクトマネージャー、ジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏)

土星本体(上記の通り、大気が1気圧となる場所から)と輪の間の距離は約2000キロほどです(編集長注: この距離の数値は、上記の「土星本体から3000キロ、輪から300キロのところを通過」という表現と矛盾します。ここではNASAから公表された数字をそのまま用いますが、おそらく輪の端の部分に食い込む形で通過したとも考えられます)。事前に計算されたモデルによれば、カッシーニが通過する領域に存在する粒子は小さく、おそらくは煙の粒子の大きさほどであろうと考えられています。それでも、探査機本体に当たったら、まるで超高速のライフルの弾丸(ちなみに、一般的なライフル銃の弾丸速度は秒速1キロほどです)に当たったような大きな衝撃を受け、探査機本体がそのエネルギーで壊されてしまうことも十分に考えられます。そのため、アンテナを進行方向に向けるなどして、細心の注意を払って今回の通過を実施しました。

こうして得られた、私たちがまだみたことがない土星本体の大気の様子の写真をご覧下さい。

カッシーニがとらえた土星の大気の詳細写真

カッシーニがグランドフィナーレでの本体と輪の間の通貨の際に捉えた、土星大気の詳細写真。2017年4月26日撮影。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

 

カッシーニがとらえた土星大気の精密写真

カッシーニがグランドフィナーレでの本体と輪の間の通貨の際に捉えた、土星大気の詳細写真。2017年4月26日撮影。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

 

カッシーニがとらえた土星大気の精密写真

カッシーニがグランドフィナーレでの本体と輪の間の通貨の際に捉えた、土星大気の詳細写真。2017年4月26日撮影。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

写真ではなかなかわかりにくいのですが、何らかの渦のような模様や、大気が何か後を引いているような流れなどがみえます。これらの大気の流れの正体は今後の解析に任せるとして、私たちがこれまでみたこともないものを捉えたことは確かです。

今後カッシーニは、土星の周りを回りながら、だいたい週1回のペースでこのような土星本体と輪の間の通過を試みます。ミッション終了までに合計22回、すなわちあと21回このようなチャレンジを実施します。次回の通過は5月2日(アメリカ現地時間)の予定です。そして、アメリカ現地時間で9月15日、カッシーニは土星大気へ突入、20年にわたる探査(土星到着からは13年)を終了します。
今回送られてきた写真だけでもワクワクしますが、さらに21回の挑戦で私たちがみたこともないどのような世界をみることができるのか、期待が尽きることはありません。

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