日本(JAXA)とヨーロッパ(ヨーロッパ宇宙機関=ESA)が進めている水星探査計画「ベピ・コロンボ」について、ESAは11月25日、当初の打ち上げ予定を延期し、2018年10月に打ち上げると発表しました。
ベピ・コロンボは、これまで人類があまり探査してこなかった(これまでに2機しか探査機を送り込んでいない)知られざる惑星、水星を探査する探査機です。惑星探査機としては珍しく2機構成となっており、1機は水星の表面や内部を調べる「水星表面探査機」(MPO)、もう1機は水星の磁気圏を調べる「水星磁気圏探査機」(MMO)です。MPOはヨーロッパ(ESA)が開発し、MMOは日本が開発します。共に水星の周りを周回しながら、水星の表面や磁場を観測します。
とりわけ、地球型惑星(水星、金星、地球、火星)で磁場を持つ天体は地球と水星だけであり、その磁場の源がどのような点にあるのかということを解き明かすことは重要です。
さて、このベピ・コロンボは2機同時に打ち上げる計画でして、当初は2018年4月に打ち上げられることが計画されていました。ただ、この打ち上げ日程も、もともと想定されていた日程からするとかなり遅いものでした(以前は2017年中の打ち上げという計画もありました)。今回、ESAとJAXAは協議の末、この打ち上げを半年遅らせ、2018年10月とすることで合意しました。
なお、この打ち上げ延期の理由は、ベピ・コロンボ探査機の重要な基幹部品である「水星遷移モジュール」(MTM: Mercury Transfer Module)において深刻な電気的な問題(詳細については触れられていません)が発生したためとのことです。MTMは、2つの周回機を載せて水星周回軌道に入るための役割を果たす重要なモジュールです。
ESA側のプロジェクトマネージャーであるウルリッヒ・レイニングハウス氏は、この「電気的な問題」は電源ユニットの1つに発生していると明らかにしており、原因は特定できたものの、「2つのユニットについて飛行前に再度検査を行う必要があり、それらの機器を送り返す必要性が生じることから、打ち上げを数ヶ月延ばさざるを得ない。そのため、次の打ち上げ機会である2018年10月に打ち上げることにした」と延期の理由を語っています。
この打ち上げ延期により、科学的な面での問題は生じないのですが、飛行面では問題が生じます。新たに設定された2018年10月の打ち上げの場合、水星到着には7.2年という非常に長い年月を必要とするため、到着は2025年になってしまいます。現時点での到着予定は2025年12月と、大変長きにわたるミッションになってしまいます。
この間、水星へ向かうための速度を得るため、探査機は地球や金星、水星に合計9回ものフライバイを繰り返すことになります。
現在、MTM、MPO、MMOはオランダ・ノルドバイクにあるヨーロッパ宇宙技術研究センター(ESTEC)にて試験が行われています。日本で開発されたMMOもすでに昨年(2015年)4月に海を渡ってヨーロッパに運ばれており、MMOと共に試験を受けています。MPO及びMMOについては現在のところ問題は発生していません。
ベピ・コロンボのプロジェクト科学者であるESAのヨハネス・ベンコフ氏は、「大変残念ながら、私たちは打ち上げまでさらに長い時間待つ必要が出てきてしまった。しかし私たちは、水星から驚くべき科学的な発見が得られるという確信を持っている。」と述べています。
宇宙で修理や回収が行えない探査機、とりわけ長時間、長距離を飛行する月・惑星探査機は、信頼性が何よりも必要とされます。どのような小さな問題点も打ち上げ前に解決しておくことが必要です。まさに「安全第一」。太陽に近いために温度環境が厳しい水星ならなおさらです。残念ではありますが、確実な打ち上げのため、私たちも我慢することにしましょう。
なお、JAXAからはこの打ち上げ延期に関する発表はありません。
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