日本初の金星探査機「あかつき」は、12月7日に金星周回軌道に投入されるはずでしたが、軌道投入に失敗、現在、太陽のまわりを回る軌道にあるということです。
「あかつき」は、12月7日午前8時49分(日本時間)に、金星周回軌道に投入されるための逆噴射を行い、その後金星の裏側を回って交信が再開されるはずでした。
しかし、予定時刻になっても交信は回復せず、1時間後の午前10時28分に通信は回復。しかし、この通信は、低利得アンテナ(低速通信用)での通信で、状況把握には時間がかかっていました。
同日夜記者会見したJAXA宇宙科学研究所の阪本成一教授(広報担当)は、探査機が1秒間に0.1回転しているという状況からみて、探査機は「セーフホールドモード」と呼ばれる、何らかの緊急時に際して探査機が自動的に安全な姿勢を取る状態にあることが考えられると述べました。
その後、運用チームによる徹夜での作業の結果、状況が次第に明らかになり、12月8日午前11時、「あかつき」プロジェクトマネージャー(PM)の中村正人教授、及びJAXA宇宙科学研究所の小野田淳次郎所長が会見し、「あかつき」の現状について明らかにしました。
それによると、「あかつき」の軌道は金星周回軌道ではなく、前日の減速による周回軌道への投入は失敗したとのことです。探査機は太陽を周回する軌道に乗っており、人工惑星という状態にありますが、仮に探査機のすべての燃料を使い切ったとしても周回軌道へ復帰する予定はないことから、再投入を断念したということです。
なお、軌道投入失敗の原因は現時点では不明で、今後JAXA宇宙科学研究所内に調査チームを設置し、原因究明に当たるとのことです。ただ、記者会見の席では、中村PMが「本来噴射すべき時間の2〜3割程度しか噴射されていないようだ。」と述べており、この噴射時間が足りなかったことが原因とも推測されていますが、その根本的な原因の究明を含め、今後の調査を待つ必要があります。
なお、衛星との通信は、高利得アンテナによる高速通信を含め回復しているとのことです。海外局を使った通信により、昨夜のうちに衛星状況を把握、RCS(姿勢制御装置)を利用して姿勢を制御し、衛星の通常状態の制御である三軸制御の状態に8日の7時25分に移行しました。
現在、「あかつき」が金星に再投入できる可能性は、2016年12月と2017年1月に2回あります。金星からは約370万キロ離れた地点を通過していますが、軌道投入の可能性は十分に存在すると、中村PMは述べています。
心配なのは、探査機の設計寿命を越えて金星に投入されるために、探査機がその時点で正常に稼働するかどうかですが、この点に関しても、中村PMは、太陽フレアが心配であるものの、今後の検討が必要と述べています。ただ、バッテリーの劣化がいちばん心配であることから、充電量を10パーセントに抑えることで、バッテリー劣化を最小限にとどめる措置をとるとしています。
今回、火星探査機「のぞみ」に続いて、重力が強い天体(小惑星のような小さな天体ではなく、大ききな天体)への軌道投入に失敗したわけですが、この点について小野田所長は、「重力天体への軌道投入は大変困難な技術ではあるが、日本がぜひとも獲得しなければならない技術である。そのためにも今後技術を磨いていきたい。」と述べています。
・金星探査機「あかつき」の金星周回観測軌道投入(VOI-1)の結果について (JAXAプレスリリース)
  http://www.jaxa.jp/press/2010/12/20101208_akatsuki_j.html
・「あかつき」特設サイト (JAXAメインサイト)
  http://www.jaxa.jp/countdown/f17/
・「あかつき」プロジェクトサイト
  http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/