「ロシアの世界」基金(ルスキー・ミール基金。Russiky Mir Foundation)は7月20日にリリースを発表し、ロシアが久々に打ち上げる火星探査機、フォボスグルントについて、打ち上げが11月3〜5日になるという見通しを明らかにしました。これは、ラボフーチン研究開発センターの所長であるビクトル・カルトフ氏の発言を、イタル・タス通信が伝えたものをさらに英語に翻訳したものです。
所長によると、ラボフーチンはこれまでも月・火星探査に長年関わってきたとし、「特に今回の探査は重要である。というのは、この探査は新しい世代が担っているからだ。フォボスグルント計画は11月3〜5日に始まる。現在私たちは、探査機をバイコヌール宇宙基地に運ぶための仕事に携わっている。さらに、私たちはロシアの宇宙開発の再興を期して、月に探査機を2014年に打ち上げる予定だ。その次には、月の極への探査になるだろう。水がみつかるかも知れないという意味で極めて面白い探査になるだろう。」と語っています。
フォボスグルントは、2009年に打ち上げられる予定でしたが、延期されました。2010年に、ロシアとウクライナは、探査機をヨーロッパにある管制センターから制御することで合意しています。探査の目的は、火星の衛星フォボスの調査、そしてフォボスからのサンプルリターンです。
バクテリアや菌類、プランクトン(※編集長注=原語ではMaxillopoda=アゴアシ亜綱)、魚、そしてユスリカが、フォボスに向かう最初の地球生物になる予定です。フォボスグルントにはこれとは別のバイオコンテナ(生物輸送用のコンテナ)も積み込まれる予定であると、ロシア科学アカデミー生物医学研究所の微生物研究所の所長のナターリャ・ノビコバ氏がイタル・タス通信に対して語っています。
彼女によると、「種子以外に、バクテリア4種、菌類、プランクトン(※編集長注=同上)、メダカ(※編集長注=原文ではNothobranchius guentheri)、アフリカのユスリカをフォボスグルントの2段目に搭載し、生物に与えるリスクの評価を行う予定だ。」とのことです。
このフォボスグルントの「搭乗員」は、将来の火星有人探査に向けて、いわゆる「宇宙検疫」の問題や、人間の惑星間飛行に関する問題の解決の一助となると、彼女は語っています。「他の天体の微生物、あるいは一度地球外に飛び出した地球の微生物が、ふたたび地球に戻ってくることができるのか、その点を理解するということは極めて重要なことである。」と、彼女は語っています。
フォボスグルントはまた、中国の火星探査機、蛍火1号と同時に打ち上げられます。2機の探査機での共同の科学実験も行われる予定です。この共同打ち上げは、ロシア宇宙庁と中国国家航天局との間での合意に基づいており、蛍火1号は、2007年に合意されたロシアと中国の火星探査に関する探査の枠組みに基づいて、火星周回軌道へと投入される予定です。
※編集長注 今回、フォボスグルントについて、「フォボスからのサンプルリターン」以上に、生物学的に大胆な実験が組み込まれていることが明らかになりました。惑星間空間に生物を送り出すということはおそらく世界では(公表されている限りでは)はじめてのことですが、特に火星という、生命の存在の可能性が示唆される世界に対し、衛星とはいえ生物を送り込むことで、記事にもありましたが宇宙検疫(地球外の生命がいた場合、それを隔離すること。逆に地球の生命により他の天体を汚染しないこと)が守られるのかどうか、また守る場合(守るべきですが)どのような仕組みで守ることになるのか、より詳しい情報が求められます。
また、この記事では、フォボスグルントに続き、2014年に新たな月探査を計画していることが明らかになっています。これは、打ち上げ予定は公表されていながら延期が続いているルナグローブのことなのか、それともルナグローブの次の計画なのかは不明です。ただ、現時点で私が把握している限り、近いうちにルナグローブ以外の探査機をロシアが打ち上げるという情報がないため、この「2014年打ち上げの月探査機」がルナグローブである可能性は高いと考えられます。
・「ロシアの世界」基金のリリース (英語)
  http://www.russkiymir.ru/russkiymir/en/news/common/news3816.html
・フォボスグルント/蛍火1号 (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/future.html#PHOBOSSOIL
・ルナグローブ (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/topics/Luna-Glob/index.html