NASAは、火星探査について大なたを振るうことを表明しました。2月13日に発表されたアメリカの2013年度予算の方針により、NASAが大幅な予算削減に見舞われることから決定した措置ですが、科学者からは、より恵まれた環境にある海外への頭脳流出などの危険性が指摘されています。2月13日付のMarsdaily.comが報じています。
この「大なた」の第1弾は、2016または2018年度に、ヨーロッパと共同で打ち上げられる予定の火星探査「エクソマーズ」です。また、2020年代にも行われるとみられるサンプルリターン計画に関しても何らかの決定を行うとみられます。
NASAのチャールズ・ボールデン長官は、今回の決定を「厳しい選択だった」とし、エクソマーズからの撤退を表明しましたが、一方で2018〜2020年にかけて、新たな火星無人探査を検討することを約束しました。
2013年度予算では、火星探査については2億2600万ドル(約180億円)もの予算削減を要請されています。率にすると39パーセントにものぼり、2012年度の5億8700万ドル(474億円)から、3億6100万ドル(291億円)へと減る、まさに大なたといえる削減に見舞われます。
その一方、NASAの予算は、大型プロジェクトであるジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡や、オバマ大統領により新たに提案された宇宙計画に沿って開発される新型の大型ロケット(SLS)などに重点が置かれます。また、スペースシャトル引退に伴って消滅するアメリカの有人宇宙輸送については、民間ベースで実施されることになります。
これら全てを含めた2013年度のNASAの予算総額は177億ドル(約1兆4300億円)です。全体としては0.3パーセント(5900万ドル=48億円)の縮小にとどまっています。
スタンフォード大学で火星探査計画にも関わっているスコット・ハバード教授は、「これはまさに科学にとっての機器であり、個人的には国家の危機だとも思っている。」と、危機感をあらわにしています。ハバード教授は、「NASAの火星探査はここ10年の間でもっとも成功を収めた探査計画であり、それがまるごと消え去ろうとしている。」述べています。
今回の予算では、昨年打ち上げに成功したマーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL)についても触れられています。MSLは史上もっとも先進的で、かつ巨大なローバーでしたが、皮肉なことにそのために将来の探査計画の縮小を招いてしまっています。
ジョージ・ワシントン大学で宇宙政策を研究しているパスカーレ・エーレンフロインド教授は、「科学にとっては悲しいことだが、将来を見据える必要がある。8月にMSLが着陸して探査に成功すれば、状況は迅速に改善すると確信している。予算は見直される可能性もあるのだ。」と、期待をつないでいます。
また、アメリカ惑星探査協会(The Planetary Society)のビル・ナイ理事長は、火星探査計画を縮小することは破滅的な結果を招くと警告しています。
「私たちが心配しているのは、いったん月・惑星探査計画が止まってしまったら、それを簡単に再開することはできないということだ。」と、ナイ氏はAFP通信の取材に語っています。
NASAは現在、世界最高のローバー技術者を擁していますが、ナイ氏は、先日のロシアの火星探査機「フォボス・グルント」の失敗に触れ、このような危機がアメリカにも訪れる可能性も述べています。
「もし(NASAの)ローバー技術者にミッションがなく、彼らが退職、あるいは辞職してしまったとしたら、もはや火星探査計画は実行不可能になるのだ。」
一方そのロシアは、アメリカが撤退したエクソマーズに関しての協力の可能性を探っています。
2009年に交わされた契約では、NASAはこの計画に14億ドル(1130億円)を拠出、一方ヨーロッパは12億ドル(970億円)を拠出し、2016年に周回機を、2018年に2機のローバーを送ることになっていました。
ハバード教授によれば、既に数千万ドルものお金がこの計画に費やされているとのことです。
ホワイトハウスの政策アドバイザーでもあり、また宇宙開発に関する政策研究家としても名高いジョン・ログズドン氏によると、今回のエクソマーズからの撤退の決定は、「他の数十億規模のプロジェクトと比べて、(エクソマーズが)資金拠出に見合わないためだ。」と述べています。この「他のプロジェクト」とは、上で述べたジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡が代表例です。この望遠鏡は、現行のハッブル宇宙望遠鏡に比べて100倍もの高い解像度を発揮できる見通しです。
オバマ大統領提案の予算では、プロジェクトには80億ドル(約6400億円)の上限が設けられることになっていますが、NASAはこの12月、計画には88億ドル(約7100億円)の予算が必要であると述べています。計画が遅れ、予算がかさんでいるためです。
また、NASAは30億ドル(約2400億円)を、次世代ロケットの開発に費やす予定です。18億6000万ドル(約1500億円)が次世代の宇宙輸送システム(SLS)開発に、12億ドル(970億円)が多目的乗員輸送船(MPCV: 以前はCEV(オライオン)と呼ばれていた宇宙船)の開発に充てられ、「次の10年に有人小惑星探査を行う」ことを目指しています。
・Marsdaily.comの記事 (英語)
  http://www.marsdaily.com/reports/NASA_kills_Mars_deal_with_Europe_999.html