アメリカ航空宇宙局(NASA)はこのほど、新しい月・惑星探査計画として、火星内部構造を調査する「インサイト」(InSight)という計画を選定しました。打ち上げは2016年の予定です。
インサイトが特徴としているのは、火星の内部構造を探査するということです。計画では、火星の内部構造、とりわけ、コアが液体なのかどうか、また地球のように近くがプレートに(現在は)分かれていない理由などを探ることになります。内部構造の探査ではありますが、この知識は、火星が現在のような環境にどのように進化したかを探る上で重要な前提となります。
インサイトは、NASAの中規模月・惑星探査プログラムであるディスカバリー計画の1つとして選定されました。今回のインサイトは、ディスカバリー計画の12番目のミッションとなります。ディスカバリー計画の特徴は、1つの探査において予算の総額に制限が設けられていることです。このため、探査は小規模となりますが、その代わり、あまり機器を搭載しなかったり探査機を大きくしないということから、開発を迅速に進められる、という利点もあります。
今回の選定では、2010年6月の計画公募に集まった合計28の探査提案の中から、2011年5月に3つの最終候補に絞られ、さらにその内から今回、実行段階へと進んだものです。
インサイトでは、迅速な開発と過去の実績の活用から、かつて火星に降りた着陸機「フェニックス」の設計を大幅に活用することになります。過去の成功例があることから探査失敗のリスクも少なく、また低予算での開発が容易になるという点がポイントです。2010年の提案時点で、探査全体にかかる費用は4億2500万ドル(現時点でのドル・円レート換算で約330億円)と、アメリカ国内はもちろん、諸外国の探査に比べても格安といってもいい費用での火星探査となります。
インサイトが搭載する機器は合計4つです。NASAジェット推進研究所(JPL)が開発する測地学観測装置は、火星の自転の変動を観測します。また、ロボットアーム、2つのカメラが、火星の表面の写真を撮影します。フランス宇宙機関(CNES)は火星の地震を検出するための地震計の開発を主導します(編集長注: フランスは、月の地震=月震の研究などでも日本と共に多くの科学者が参加している国でもあります)。ドイツ航空宇宙センター(DLR)では熱流量計の開発を行います。なお、探査全体のコントロールは、NASAマーシャル宇宙飛行センターが管轄します。
今回の探査について、NASAのチャールズ・ボールデン長官は、「NASAにとって火星探査は最優先事項だ。インサイトが選定されたということで、火星についての謎を解くための手段がさらに広がり、そして火星有人探査飛行という究極の目標への大きな一歩となる。先日のローバー「キュリオシティ」の着陸が国民に大きな興奮を呼び起こしたが、今回の発表で、さらに驚くべき探査をこのあと実施するということを示すことができる。」と、この探査の意義を強調しています。
また、NASAの科学ミッション部門副部門長であるジョン・グランズフェルド氏は、「ディスカバリー計画は、太陽系に関する基礎的な未解明の事柄について、科学者が答えを出すために、低価格のソリューションと革新的な探査手法を提供している。インサイトは火星のコアと内部構造の解明という点で、これまで周回機などでは十分に解明されているといえない火星内部への理解を深めるだろう。」という期待を表明しています。
インサイトのプロジェクトマネージャーは、JPLのブルース・バーナード氏で、CNESおよびDLRが機器提供を行うという意味では、アメリカ・ヨーロッパの国際探査ともいえます。火星への着陸は2016年9月を予定しており、探査期間は2年間を予定しています。
打ち上げ期間は2016年の3月8〜26日の間が予定されています。