今年は火星ローバー「キュリオシティ」の着陸が大きな話題になりましたが、8年前に着陸し、9年目を迎えようとする今も活動を続けている火星ローバー、マーズ・エクスプロレーション・ローバー「オポチュニティ」を忘れてはなりません。
「オポチュニティ」は現在も探査を続行中です。このほど、クレーターの縁の探査を終了することになりました。マーズ・エクスプロレーション・ローバーの主任科学者であるコーネル大学のスティーブ・スクワイヤーズ教授は、「もしあなたが地質学者で、このような(いま「オポチュニティ」がいるような)場所を探索しているのだとしたら、まず露頭を見つけて歩きまわることだろう。ちょうどそれが終わったところだ。」と語っています。
今回オポチュニティが探査を行なっていた領域は、上空を周回する火星探査機のデータによリ、粘土鉱物(水に関係がある鉱物)が比較的多い場所であることが確認された地域です。水が多いだけでなく、酸などにも侵されていない環境は、生命の存在などに適しているのではないかと考えられます。このほど、このローバーの最新状況について、サンフランシスコで開催されているアメリカ地球物理学会の年次総会で発表が行われました。
1年ほど前に、ローバーのチームは、この地点をローバーの探査目標と定めました。この地点は、マーズ・エクスプロレーション・ローバーの2台のローバー(「スピリット」と「オポチュニティ」)の技術チームを数年にわたって率い、このほど亡くなったヤコブ・マチェビッチ氏にちなみ、マチェビッチの丘と名付けられています。
10月から11月にかけて、オポチュニティはマチェビッチの丘を反時計回りに回り、約354メートルにわたって移動しながら探査を行いました。これで、オポチュニティの総走行距離は35.4キロメートルにも達することになりました。今回の探査では、マチェビッチの丘に存在する露頭の大きさなどの測定や、よリ詳細な探査を行うための地点の選定などが実施されました。
スクワイヤーズ氏によると、現時点までの探査でもいろいろな疑問が浮かび上がってきているということで、「どうその問題を考えるか、私たちには良いアイディアが浮かんできており、よリ細かい作業に向けた準備は整っている。」と述べています。
このマチェビッチの丘はエンデバー・クレーターの西側の縁にあります。エンデバー・クレーターは直径22キロもある大きなクレーターで、おそらく30億年前、何らかの天体の衝突によりできたものと考えられています。この衝突の過程で地下深くから持ち上げられた物質が、このマチェビッチの丘を構成していると考えられています。衝突からは相当時間が経っていることもあり、物質はかなり変成が進んでいると考えられます。時期が異なる露頭を選び出すことが、この地域の成り立ちを調べるために重要なこととなります。
いくつかの露頭のうち、科学的に興味がありそうな2つの露頭が選択されました。それぞれ「ホワイトウォーター・レーク」と「カークウッド」と名付けられています。ホワイトウォーター・レークの方は明るい色の物質が多く、科学者たちはこの中に粘土が混じっている(つまり、何らかの形で水が関係している)と確信しています。カークウッドの方には小さな粒子が混じっており、この粒子は、かつて(2004年、探査当初に)オポチュニティ自身が発見し、「ブルーベリー」と愛称がつけられた粒子とは、成分も構造も、そして分布も異なっていることがわかっています。そのため、この粒子はスクワイヤーズ氏により「ニューべリー」と名付けられました。
「ホワイトウォーター・レークやカークウッドが、クレーター形成の後のものなのか前のものなのか、現時点ではそれを判断する材料はない。重要なことは、この露頭に見えている地層について、相対年代(地層ごとの新旧を表す年代)をしっかりと決定することである。また、ホワイトウォーター・レーク露頭とそこから落ちてきたと考えられる岩石屑について、よりしっかりとした調査を行い、上空からみえている粘土鉱物の痕跡があるかどうかを明らかにしなければならない。さらに、ニューベリーの成分についてもより詳細に調べる必要がある。」(スクワイヤーズ氏)
・NASAのプレスリリース (英語)
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/dec/12-418_Opportunity_rover.html
・マーズ・エクスプロレーション・ローバー (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MER/