NASAでは、砂地にとらわれて動けなくなっているマーズ・エクスプロレーション・ローバーのうち1台の「スピリット」について、脱出のための作戦を実施することにし、16日(月曜日)からローバーへコマンドを送って作業を始めます。
「スピリット」は、4月23日以来現在まで、「トロイ」と名付けられた場所で動けなくなっています。科学者たちは、脱出に至る過程は長くなりそうで、地上で「スピリット」がおかれている状態を模擬して春に行ったテスト結果では、実際その脱出がうまくいくかどうかはわからないと考えています。
NASA本部の、火星探査プログラム長のダグ・マッキンストン氏は、「おそらくかなり長い作業になるだろう。『スピリット』がこのまま脱出できない、という可能性もかなり高い。最初の数週間の作業を経てみなければ、ローバーが脱出できるかどうかを結論づけることはできないだろう。」
火星ローバー「スピリット」は、6つの車輪を装備しています。このうち動作が可能な5つの車輪を使って、最初の指令は前に進むよう6回にわたって動作させる予定です。技術者たちは、この最初の段階で、車輪がスリップして前進はほとんどできないだろうと考えています。2006年以来、「スピリット」の右前部の車輪は動作しなくなっており、おそらくこれはローバーが(本来3週間という予定をはるかに超えて)動作し続けたたために部品が消耗し折れてしまったためだろうと考えられています。
「スピリット」が動作結果を地球に送信してくるのは翌日の予定となっています。その後、技術者が結果を分析し、新たな指令をローバーに向けて送る予定です。このようにして、2010年の早い時期まで、技術者による挑戦が続くことになります。
「火星で動き続けるということは実際大変なことだ。結果がどのようなことになったとしても、『スピリット』を動かせるようにするために注いだ努力は、火星の表面がどのようになっているかを理解するために重要になる。さらに、将来新しい火星ローバーを走らせる際にも役立つだろう。『スピリット』はこれまでに多くの科学的に重要な発見を成し遂げ、私たちに火星のすばらしい風景の写真を送ってきてくれた。もう設計寿命の22倍という長い間、動いているのだ。」(マッキンストン氏)
この春には、「スピリット」は動かない車輪を引きずったまま後ろ向きに動いていました。4月には、「スピリット」の他の車輪が、明るい色をした滑りやすい砂が下にある火星の地表で壊れてしまいました。その後何度か、車輪を動かすための試みが行われましたが、車輪はさらにこの砂の中に沈むという結果に終わってしまいました。そのため、走行は中止され、時間をかけて脱出方法について検討し、テストすることになりました。
マーズ・エクスプロレーション・ローバーのプロジェクト主任であるジョン・カラス氏は、「動かなくなったローバーについて、また、動かすための準備については、かなり精力的かつ徹底的に行った。」と述べています。「地上では2つのテスト用ローバーを使って、火星で『スピリット』が直面している状況をできるだけ再現した。しかし、『トロイ』における状況を地上で完璧にシミュレーションすることは不可能だ。」
「スピリット」は、直径8メートルほどのクレーターの縁に引っかかった状態になってしまっているようです。このクレーターには硫化物を含んだ砂が堆積しており、この硫化物は、かつて火星に熱水あるいは蒸気があったことを示唆しています。このクレーターに堆積している物質はきれいに層をなしており、その上にやや堅めの砂が乗っている、という構造になっています。この砂によって「スピリット」の車輪が壊れてしまったのです。クレーターは、「スピリット」の左側に位置しており、技術者たちは、緩い斜面を通って「トロイ」から脱出するためのルートを作成してきました。
NASAジェット推進研究所(JPL)でローバーの操縦を行い、またこの脱出のためのテスト全般を担当しているアシュリー・ストラウプ氏は、「まず我々はローバーの車輪をまっすぐに向け、走らせることになる。しかし、左側のクレーターに落ち込むことを避けるため、右に向けて走行することになるだろう。まっすぐに走らせるのは、『スピリット』の重心を、引っかかっている岩の先に持ってくるためだ。ローバーの右前方の車輪が動かないので、これはかなり大変な作業になる。」
「スピリット」はこれまで、火星表面について、搭載されたロボットアームとカメラ搭載マストなどを使って調べてきました。「トロイ」における調査は、火星にかつて温泉、ないしは蒸気を噴出する噴気口があったかどうかを調べるためでした。もし脱出に失敗した場合、「スピリット」がいることになる場所は、科学的な新たな発見をもたらすことになります。
「『スピリット』の車輪に絡まっている柔らかい物質は、火星でこれまで見つかった中でももっとも多くの硫黄を含む物質だ。ここでずっと動かなくなっている、ということを利用して、この興味深い物質について調査することになるだろう。」と、マーズ・エクスプロレーション・ローバの科学機器主任研究者である、ワシントン大学セントルイス校のレイ・アービンソン氏は語っています。
※このプレスリリースは11月12日に発出されています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2009/nov/HQ_09-263_Free_Spirit_Attempts_Begin.html
・マーズ・エクスプロレーション・ローバー (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/exploration/MER/