中国は独自の火星探査を急いで実施すべきである、と、中国の月・惑星探査関連の高位の技術者が言明しています。人民日報の記事を人民網日本語版が翻訳して伝えています。
この記事の中で火星探査の一刻も早い実施を主張しているのは、中国の第1期月探査システムの総責任者である葉培建氏です。この「一刻も早く」という言葉の意味ですが、記事から推察するには、火星探査の機会が2年に1回(より正確には26ヶ月に1回)に限られてしまうため、好機を逃すと2年待つことになってしまう、という意味のようです。実際、今年(2013年)はこの火星探査の好機にあたり、次のチャンスは2015年に訪れます。従って、中国が独自火星探査を行うとしたら(そして開発が急いで間に合ったとしたら)、この2015年が打ち上げチャンスとなる可能性が大きいと思われます。

記事は3ページに分かれていますが、要点を記します。かっこ内は編集長の注釈です。
○月・惑星探査のもっとも大きな目的は資源開発である。また、国力を示すという意味でも重要である。
○第2期月探査プロジェクト時期(嫦娥3〜4号の時期のことか?)に、中国は深宇宙通信用のアンテナを設置することができた。嫦娥3号の打ち上げは今年。2020年には月のサンプルリターン探査を予定している。
○月探査を行った国は間髪を入れず火星探査を実施している。インドもそうである。また、現時点ですでに火星探査の回数(打ち上げた火星探査機の数?)の方が月探査の回数を上回っている。このことからも、火星探査の重要性がわかる。ただし中国は、総合的な火星探査計画を未だに打ち出せていない(この「総合的」というのは、例えば月探査のようなシステム化された、あるいはプログラム化された、継続的な探査計画ということを意味しているものと思われます)。
○火星探査には解決すべき点が3つある。距離が遠いための通信時間の問題および自律的な衛星制御の問題、軌道測定制御の問題、火星についての知識不足の問題(探査によってもまだ解明されていない部分が多いという問題)。

その上で葉氏は、国際協力も重要だが、国力を示すという意味では早期の中国独自の火星探査が必要であると主張しています。

すでに2015年に中国独自の火星探査機が打ち上げられるという情報はこのブログ記事にも掲載しましたが、今回の記事が、その開発を加速させるべきである(言い換えると、開発が遅れ気味で、他国に先んじられる…とりわけ、今年火星探査機を打ち上げる予定のインド)ということを主張しているのか、すでに火星探査機の開発が順調に進んでいることから、国民一般に向けて改めて探査の意義を強調した「だけ」なのか、この記事だけからは真意は伺えません。

ただ、注目すべきポイントは、中国の火星探査計画が「プログラム化されていない」ということを、中国の宇宙開発の最高責任者の1人が認めたという点でしょう。中国の月探査が他国に比べても優れているとされている点は、周回→着陸→サンプルリターンというプログラム化された探査を、ちゃんと時間を追って行っている点にあります(その点、日本の「かぐや」と比べてみてください)。
一方、火星探査についてはそのような計画はなく、とりあえず周回機を打ち上げるということは決まったものの、その後については白紙といってもよい状況です。このような状況を打開して、火星探査についてもプログラム化された探査計画を打ち立てることができるかどうかが、今の中国の国力、少なくとも宇宙開発の実力を証明できる鍵になることは確かでしょう。

一方で、ここのところ中国の月・惑星探査計画は、やや「総花的」になっている印象を受けます。この記事にあるような火星探査計画をはじめ、小惑星探査計画なども打ち出されていますが、月探査ほど明確なものではありません。火星探査計画にしても、まだ名前すら公表されておらず、開発状況についても不明です。
今後、中国の月・惑星探査がどのような方向に向かっていくのか、月探査だけではなく、こういった深宇宙探査の情報にも気をつけていく必要があるでしょう。