火星探査について、思いがけない国からの情報が入ってきました。中東の産油国で、ドバイに代表されるその裕福さで知られる国、アラブ首長国連邦(UAE)です。

アルジャジーラなど複数のメディアによりますと、UAEではこのほど宇宙庁を設立して、本格的な宇宙開発・宇宙探査へと乗り出すことにしたとのことです。
UAEの国営通信WAMによりますと、UAEのハリファ大統領は、「2021年までに航空宇宙分野で世界トップ層の仲間入りを目指す」と宣言、中東、及びイスラム圏として本格的な宇宙大国を目指す意思を明らかにしました。
なお、当局者によると、火星への飛行は約9ヶ月を予定しているとのことです。

その代表的なプロジェクトとなりそうなのが、2021年をめどとした火星への無人探査機打ち上げです。
UAEのシェイク・ムハンマド副大統領は、「我々は火星飛行という画期的な挑戦を行う。そのような画期的な挑戦こそが我々を鼓舞し、高めるのだ。」として、この宇宙開発計画を強く支持しています。なお宇宙開発は、外国からの技術導入は行うものの、携わる人材はほぼ国内の人材とするとのことです。
なお、2021年はUAEの建国50周年にあたります。

現在UAEは、アル・ヤー (Al-Yah)という通信放送衛星を持ち、チュラヤ(Thuraya)という衛星利用の移動通信衛星、地球観測を行うドバイサット(Dubai Sat)を運用しています。

(編集長注)
UAEはこれまで衛星運用という点では実績を挙げてきています。しかし、火星探査機、それも自国開発のものとなりますと、こういった通常の商用衛星に比べても極めて高い技術レベルが必要となります。宇宙庁を設立し、人材を集め、潤沢なオイルマネーを投入したとしても、果たしてあと7年でこのような高度なミッションを達成できるのかどうか、見通しは不明です。
また、月ではなくいきなりダイレクトに火星を目指すというプランについても、少し飛躍があるのではないかという心配があります。潤沢に資金を投入した中国でさえ、月探査の構想は1990年代から始まって、実現まで10年以上かかっています。さらに、火星にはまだ探査機を送り込んでいません。
さらに、打ち上げロケットをどうするのかも不明です。他国のものを利用するのか、自主開発を行うのか、また射場を海外に設けるのか自国、あるいは近隣国に設けるのかも不明です(UAEの位置からして、もし東に打ち上げることを想定するのであれば、ペルシャ湾に面するフジャイラ付近ということになりますが、ここに設けたとしても、真東に打ち上げるという想定の場合には、インド洋を飛び越えたあとインド南西部上空を通過することになり、あまり打ち上げ軌道としては好ましくありません。できればオマーンなど、もう少し南側に射場を設置したいところです。

もう1月になるのは、アラブ圏内でも宇宙開発に意欲をみせているイランです。イランはすでに無人ロケットの打ち上げに成功しており、将来的には月・惑星探査も行うという意欲をみせています。
ペルシャ湾(ホルムズ海峡)を挟んで互いに近い位置にある両国ということで、互いの意地、あるいは国威発揚という点も否定できないでしょう。
果たしてUAEが、「9番目の宇宙開発国」(アルジャジーラの記事より)となるかどうか、今後の展開が注目されます。
※なお、ウィキペディア日本語版の記事を参考にした場合、もし仮に今、UAEが自国開発のロケットで衛星を打ち上げた場合、世界では11番目の国となります(旧ソ連、アメリカ、フランス、日本、中国、イギリス、インド、イスラエル、イラン、北朝鮮の次)。

【2014年8月29日追記】「編集長注」において、当初の記事では「カタール」と表記していましたが、これは「オマーン」の誤りでした。失礼しました。また、イランはすでに人工衛星の打ち上げを行い、北朝鮮も人工衛星の打ち上げを行ったとみられていますが、イラン、北朝鮮とも、ロケット開発は軍事技術(とりわけ核兵器輸送手段)につながることから、国連安全保障理事会の決議により禁じられています。