アメリカの宇宙関連ベンチャー企業で、グーグル・ルナーXプライズ参加団体でもあるムーン・エクスプレス(Moon Express)と、月面天文台の設置を推進する民間団体である国際月面天文台協会(ILOA: International Lunar Observatory Association)が、このほど共同で、2016年に月南極地域に探査機を着陸させる探査を発表しました。「ロシアの声」(The Voice of Russia)が伝えた内容を元にmoondaily.comが報じています。
このmoondaily.comの記事によりますと、両者は早ければ2016年頃にも、月の南極地域に着陸機及びローバーを送り込む計画であるとのことです。ミッションの規模はおよそ1億ドル(日本円で約100億円)程度と見込まれ、着陸機には直径2メートル程度の電波望遠鏡のアンテナが搭載されることになります。なお、着陸機の着陸場所としては、月の南極付近にあるマラパート(Malapert)というクレーターの中央丘頂上付近が想定されています。
ILOAは、もともと月面に天文台を設置し、銀河の観測を行おうということを目指してきました。今回の計画でも、そのために場所などが精密に選ばれています。銀河、すなわち天の川の観測を電波を使って行うためには、電波の雑音が多すぎる地球上ではいいデータを得ることは難しいのです。
また、画像を得る場合であっても、地球の大気がある条件よりは、宇宙空間、あるいは月面の方が好条件ではあります。
地球の電波をさえぎるという意味では、月の裏側に月面電波天文台を設置し観測するということも一法ですが、今度は通信手段の問題も出てきます。裏側からですと、中継衛星を介しない限り地球上との通信ができないのです。
その点、月の南極の山の上であれば、地球との「ダイレクトな通信が可能」(ILOAのスティーブ・ダスト会長)ということで、条件は非常に有利になります。
さらに今回計画されているマラパート・クレーターは、より有利な条件を備えています。
月面の極地域は、太陽がほぼ真横から差し込むため、クレーターのような斜面地域には永久に日が当たり続ける領域ができる可能性があることが指摘されています。マラパート・クレーターは、月の自転周期(すなわち1ヶ月)のうち約90パーセントは日が当たり続けるとされ、そのこともあって温度環境が大きく変動しないという好条件を備えています。温度は平均してマイナス50度と低温ですが、温度が変動しないこと、太陽光がほぼずっと当たり続けることで、電力が手に入りやすい(かつ途切れにくい)ことは、探査機にとって非常に有利な条件です。
ダスト氏によれば、これによって原子力電池を使わなければならなくなる可能性を回避できるだけでなく、将来的には月の極地域が人類にとって居住しやすい場所になる可能性もあるということです。ダスト氏によれば「複数の世界が同居する人類社会がここ(月の極地域)に築かれるのが希望だ」とのことです。
一方、月の極地域はいろいろな資源が存在する可能性がある場所です。特に、ダスト氏も述べたような人類の居住に欠かせない水の存在は、これまでにも幾度となく指摘されてきました。
月の極地域には、太陽がずっと射しこみ続ける部分と、太陽の光が永久に当たらない部分である「永久影」という領域が存在するとされています。この永久影の領域には、氷が存在するとされ、その氷を利用することで、月面で人類活動を維持したり、燃料を製造することができると期待されています。この氷の存在は完全に確定しているわけではありませんが、各種探査ではかなり有望という可能性が出てきています。
ムーン・エクスプレスは、将来的には月面での資源採掘(金属や鉱物など)を目指しており、それを地球に持ち帰ることで利益を上げることを考えているようです。
そのため、ムーン・エクスプレスでは、小型ローバーを着陸点周辺で活動させ、表面の様子などを調べ、利用できる資源がどの程度存在するかどうかを見積もろうとしています。
ムーン・エクスプレスは、元々月面に純民間資本により最初に着陸機を着陸させる競争「グーグル・ルナーXプライズ」の参戦者として名乗りを上げてきましたが、現在ではそのレースの中でももっとも有利な立場につけているとされています。
このグーグル・ルナーXプライズのレースとしては、ムーン・エクスプレスは2015年に小型ローバーを月面に着陸させることを目指しています。これにも、ILOAが開発した小型月面望遠鏡を搭載していく予定となっています。
ILOAは今回の計画について、「世界ではじめて、月面において天体物理学的な観測と通信を行う設備となる予定で、科学研究にも大きな貢献になるだけでなく、商業的な放送、さらには本会が進める教育活動において『市民の科学』を進めていくことにもつながる」と、その意義を強調しています。
さて、ILOAは月探査情報ステーション(及び編集長)と共同で、日本で「ギャラクシーフォーラム」という教育イベントをほぼ毎年開催しています。このギャラクシーフォーラムは宇宙を知ること、また宇宙の知識を教育することの重要性を議論する場となっており、日本だけでなく世界各地で開催されています。
次回テーマとして現在ダスト会長と、「有人月面探査」をメインにしようということで話がまとまりつつあります。これは、上でも述べたように、この2016年(早ければ)の着陸機・ローバー探査の先にある、人類の月面居住を見据えた動きということになるかと思います。
なお、次回のギャラクシーフォーラムは2014年3月に開催の予定です。詳細は下記のページにてアナウンスする予定です。
- moondaily.comの記事
https://moonstation.jp/ja/events/Galaxy_Forum/
https://moonstation.jp/ja/history/companies/GLXP.html