韓国の月探査計画に若干の後退がみられることになりました。中央日報日本語版が伝えるところによりますと、韓国の科学技術情報通信部は8月9日に宇宙開発委員会を開催し、この中で月探査の「第1段階」完了の時期を2年遅らせ、2020年に再設定すると決定しました。

2018年末打ち上げ予定の韓国の月周回衛星の想像図

2018年末打ち上げ予定の韓国の月周回衛星の想像図。合計で5つの機器を搭載し、そのうち4つが韓国、1つがNASAのものとなる。(© KARI)

韓国は宇宙開発を国策として積極的に推進すると共に、その技術開発、特に国産化を進めています。ロケットもKSLVと呼ばれる国産ロケットの開発を進めていますし、月探査もその流れの中にあります。
韓国の月探査は、2段階にわたるものとなっています。第1段階は周回衛星を打ち上げ、第2段階は着陸機を打ち上げるというものです。

前の朴槿恵(パク・クネ)政権時代には月探査は韓国の国策として強力に推し進められました。朴政権が進めた「技術イノベーションによる韓国の国力回復」の方針に沿ったもので、その中で予定が変わっていきました。当初は最初から着陸機を打ち上げる予定でしたが、その前に周回機を打ち上げる(月・惑星探査としてスタンダードな)方向に変わると共に、NASAとも技術協力を推進、一方では予定を前倒しする方向で検討してきました。

その中で、2018年末にはNASAからの技術協力を得た月周回衛星を打ち上げ、2020年には月着陸機を打ち上げる…朴槿恵大統領の言い方を借りれば「月に太極旗をはためかせる」…方向となっていました。
ただ、このブログで私も何回か指摘していましたが、ロケットの開発も遅れる中で、いたずらにスピードばかりを求めることは、月・惑星探査のあり方としては望ましくない方向であると考えられます。
そんな中で、スキャンダルと共に朴槿恵大統領は退陣、変わって登場した文在寅政権が現在、前政権の政策の総見直しを進めています。今回の延期決定もそのような流れの中にあるといえるでしょう。2年遅れると書きましたが、実際には朴・前政権が推し進めた「2年の前倒し」をキャンセルし、元の計画に戻したという言い方が適切かと思われます。

中央日報日本語版の記事の中にも、「衛星開発にも5~8年かかるのに月探査1段階事業を3年で推進するのは現実的に難しい。開発期間を2年延長しよう」という意見が紹介されています。確かにこれまで、月・惑星探査を全く行ったことがない韓国が、あと2〜3年(もし2018年としたらあと1年ちょっと)で月探査衛星を打ち上げるというのはもはや無謀といってもよい計画だと思われます。
宇宙開発、とりわけ費用のかかる月・惑星探査は、技術を慎重に積み重ね、安全を確かめて進めることが必要です。今回の延期の方針はその方向性に沿ったものであり、妥当であると編集長(寺薗)も考えます。

またこの記事では、 科学技術情報通信部のペ・テミン政策官の言葉として、「もう1段階の開発追加も検討する必要があるかも知れない」という検討内容が述べられており、これについては今後検討が進められていくと考えられます。
この検討結果次第では、2020年の周回機打ち上げの目標再設定もありえるでしょうし、さらに第2段階の着陸機打ち上げの目標(そもそもの計画では2025年とされていました)の再検討も行われる可能性があります。

月・惑星探査は、探査に関する技術的な問題だけではなく、予算や周辺技術の状況も総合的に判断して進めなければなりません。と同時に、政治的な観点からの介入、とりわけ政権の人気取りといった「技術的な目的以外の観点からの」介入は極力排除しなければなりません。
今回目標をある程度ゆるめたことで、韓国がもう一度月探査に関する技術的な状況を点検した上で、現実的な目標を設定し、確実なミッション成功を収められるような(時間的・技術的な)計画を再立案することを望みたいと思います。