少し古くなってしまいましたが、4月20日付の韓国のIT系ウェブメディア「ETニュース」に、韓国が打ち上げる予定の月探査機に搭載される3つの科学機器が決定したという記事が掲載されました。

記事では打ち上げは2018年となっております。これまでお伝えしてきた記事では、韓国は2020年に月探査機を打ち上げる予定で、その構成は月着陸機とローバーであるということでしたが、今回の記事では、その前に…再来年には周回機を打ち上げるということになっています。ともかくもみていきましょう。

今回記事の中で搭載予定とされている観測機器は以下の通りです。

  • 広視野偏光カメラ (Pantoscopic Polarizing Camera)
  • 磁力計 (Measurement Device for Moon’s Magnetic Field)
  • ガンマ線スペクトロメーター (Gamma Ray Spectroscope)

これは、韓国で宇宙開発などを所管する省庁である未来創造科学部(日本でいう「省」にあたります)が19日に発表したもので、機器選定委員会が9つの機器候補の中から選んだものです。機器選定委員会は1月に開催され、機器の選定にあたっていました。

広視野偏光カメラ

韓国が2018年に打ち上げる予定の月探査機に搭載する予定の広視野偏光カメラの想像図 (出典: etnews)

磁力計

韓国が2018年に内ゲル予定の月探査機に搭載される予定の磁力計の想像図(出典: etnews)

2018年に打ち上げられる予定の韓国の月探査機は周回機で、月上空100キロを1年以上にわたって周回し、月の地形や資源などを調査するほか、月周辺環境の調査も行う予定とのことです。
なお、この「月上空100キロを1年以上にわたって周回し」という部分ですが、実は月の重力場はかなり変化が激しいため、このような低い(100キロは実際月探査機としては「低い」高度です)高度を周回させるためには、かなりの技術と多くの燃料(軌道を維持するため)が必要となります。日本の月探査機「かぐや」もこの100キロという高度で2年近く周回してきましたが、打ち上げ時3トンという大型の探査機になりました。また、中国初の月周回探査機「嫦娥1号」では、重力の問題を避けるため、200キロという高度での周回になりました(月から遠くなるほど重力の影響が軽減されるため)。韓国がいきなり高度100キロでの月周回に挑戦するというのはよくいえば意欲的なのですが、やや心配な面もあります。

広視野偏光カメラは、世界ではじめて、月面の偏光を測定します。実は偏光測定というアイディアははじめてのものではなく、地上からの偏光観測は昔から盛んに行われています。
月の光は太陽の光を反射したものです。この反射するときに、地面の性質によって光が偏ってしまいます。肉眼では特に変わったところはないのですが、光の振動する方向が変わるため、「偏光フィルター」という装置をつけることによって光の強さの違いを記録することができます。ここから、月の表面の物質がどのようなものであるか(細かさや大きさなど)を知ることができるのです。
etnewsによれば、このデータは将来(おそらく2020年)に予定されている月着陸機の着陸点の参考データとしても使われるとのことです。

磁力計は、「かぐや」にも搭載されていましたし、測るものが「月の磁力」ということでわかりやすいかと思います。月には現在磁場はありませんが、かつては磁場が存在していたことがわかっており、いまでもその当時の磁力がごくわずかながら残されています。また、月で磁力が特に強いところには地質構造上不思議な場所もあり、磁力とその地形(のでき方)との間には何らかの関係があるのではないかと考えられています。
なお、上の図にある磁力計は大きな棒のようになっています。これは、探査機本体の磁場の影響を避けるために、本体からわざと遠くに設置するためです。「かぐや」でもこのように、長い棒の先に磁力計を搭載しました。
ただ、この磁力の測定は実際には非常に大変です。上で述べたように、探査機本体の磁場の影響を避けるためには、「電磁適合性」(EMC)という要素が重要になります。電磁適合性とは、探査機の電気的性質が、搭載している磁力計へ影響を与えないことをいいます。ただ、いうのは簡単ですが実現するのは大変です。探査機の素材を厳密に吟味し、なるべく磁力が発生しないような素材を使う必要もありますし、どうしてもそのような素材を使う場合には影響がどれくらいあるかを見積もり、影響を軽減するような工夫を施さねばなりません。「かぐや」ではこれに大いに苦労したのは、チームにいた私(編集長)がよく知っております。
月の場合は、これも上で述べたように非常に磁力が小さいため、測定に影響を与えないほど本体の磁場を小さくしなければなりません。ほとんど金属でできている磁場の影響を小さくするために、「かぐや」では例えば、本体を覆う遮熱フィルムを、磁場を遮蔽する効果がある特殊なフィルムで作っています。「かぐや」の特徴的な黒い外観は、このフィルムのものなのです。

ガンマ線スペクトロメーターも、「かぐや」に搭載されていた機器です。月の表面に存在する岩石や鉱物を構成する元素から出てくるガンマ線(特に放射性元素)をキャッチし、元素分布を調べるものです。ウランやトリウム、カリウムなどの元素分布を知ることで、その岩石がどのような過程でできてきたのかを推定することが可能です。

なお、etnewsではこの3つの装置のほか、韓国航空宇宙研究院(KARI)が開発するとされる高精度カメラ、さらにはNASAが開発する装置が搭載されることが「期待される」と述べています。NASAの装置がどのようなものなのかについては記事中では触れられていません。

2018年に打ち上げられる月探査機は「テスト」としての位置づけになっているようで、韓国の「巨大一般研究政策」(記事ではこう書かれています。Enormous Public Research Policy)研究所?の所長であるBae Tae-min氏は、「この探査機は将来の月探査へのステップとなり、我々の最新技術を試すものとなる。人類が手を取り合って宇宙の未知の世界を探査するというのは非常に意義深いことであり、科学技術にも貢献するものである。」と述べています。

確かに意義深いことは意義深いのですが、問題は2018年までにその探査機が完成するのか、装置ができ上がるのか、ということです。もう再来年です。しかも月の環境は半端ではありません。「かぐや」でさえ、初期構想から打ち上げまでには10年以上かかっていますし、月の環境を想定して開発は大変でした。それを2年でやってしまえるというは私にはあまりに楽観的なように思えます。
ただ、「先輩たち」の成果を使えばその点はできる、と考えているのかも知れませんが…。
今後も、韓国の月探査計画については継続的に追いかけていきたいと思います。