日本が2019年、つまりあと5年後に月着陸を実施するのではないかという記事が、7月15日付の読売新聞に掲載されています。

記事によると、探査は月の地質調査、及び資源利用を目的として行われるもので、5年後の2019年に月面着陸を目指すとのことです。中国、インドなどが月探査、とりわけ月着陸探査を本格化させる中で、日本はNASAとも協力して探査を実施するということです。
ポイントとしては、ピンポイント着陸技術、ローバー誘導・制御技術、月の夜(14日間あります)を超えるための電池技術などが挙げられています。

日本の着陸型月探査というと、セレーネ2(SELENE-2)計画が真っ先に挙げられます。現時点ではセレーネ2計画は「2010年代中頃」の実現を目指して計画を進めている、とありますが、すでに2010年代中頃にさしかかっている現在でもミッションが実現する見込みは当分ありません。
読売新聞の記事にある写真はセレーネ2のものと考えられますが、今後5年で急速にセレーネ2計画が進みそうだという話は私の周りでも聞こえてきません。

もう1つ、日本の月探査計画には「スリム計画」(SLIM)というものがあります。こちらはいわば、セレーネ2計画のいちばん肝心な部分だけをぎゅっと凝縮させたもので、打ち上げにイプシロンロケットを使用する(ことを想定する)ことによって小型化を図り、ピンポイント着陸技術やローバー誘導技術などを実証しようという計画です。しかし、この計画も未だ宇宙科学研究所のワーキンググループの段階であり、5年後の実現というのは難しいようです。

いろいろ調べてみたところ、文部科学省で公開されている文書にヒントがあることがわかりました。この資料は、文部科学省の科学技術・学術審議会の下部組織にあたる宇宙開発利用部会のさらに下部にあたるISS・国際宇宙探査小委員会の資料です。
7月1日に開催された第5回の小委員会の資料として、「無人月探査ミッションに関する日米協力の検討状況」と題された資料がウェブサイト上にアップロードされています(下にリンクを掲載します)。この資料は実質たった1ページという極めて短い資料なのですが、要点は、現在日本とアメリカとの間で、小型月着陸ミッションに関しての連携を進めているという内容です。

この資料は、左側に日本の月探査技術(セレーネ2が念頭にあるものと思われます)、右側にはアメリカの月着陸計画があり、その両者が協力する可能性についての検討が行われていることを示しています。
アメリカの月着陸計画はRPM(Resource Prospector Mission: 月資源探索ミッション)と名付けられており、月の資源、特に氷(水)の存在を確認するほか、その氷を月において利用する「その場利用」の可能性を検討するミッションとなっています。
ただ、現時点では「Pre-Phase-A」(プリ・フェーズA)となっています。これは、フェーズAの前段階、すなわち探査として正式に(NASAに?)承認されて計画としての検討が始まる、その前の段階ということで、まだ、興味を持つ科学者の間で実現可能性などを検討している段階、ということです。
ところが、この「Pre-Phase-A」は実はセレーネ2もスリムも同じで、このことからアメリカと日本が共同での月探査、それも月着陸計画を練り上げ、相互に予算や技術などを融通しあうことで、両者の探査実現を加速させようという意図があるのではないかと読み取れます。

セレーネ2は、実際には月探査衛星「かぐや」の初期段階の検討での着陸実験段階から数えると実に15年以上も検討が続いているミッションです。しかも未だに実現のめどが立っていないということから、このような可能性も検討の1つに上がっているということが考えられます。また、日本の無人誘導・着陸技術は研究が非常に進んでいることから、アメリカ側としても協力して欲しいという意思があるのではないでしょうか。
一方では、アメリカ(NASA)側は月・惑星探査予算の減少に苦しんでいる一方で、探査の主軸が小惑星に移っていて、月探査についてはむしろ中国やインドに遅れを取っている状況です。そのため、少ない予算を効率的に使い、月探査におけるアメリカの存在感を確保するという意味でも、この計画が打ち出されてきたことが考えられます。

ただ、月着陸探査は中国やインドが先行する一方で、グーグル・ルナーXプライズが民間での月着陸探査の実施期限を来年に区切っているなど、かなり混沌とした状況になっています。私としては、2019年というのはもうタイミングとしては遅いのではないかというように思っています。
また、両方とも「Pre-Phase-A」という、かなり厳しい状況に置かれたミッションを、他の宇宙計画に先駆けて5年間で実現させるというのは極めて難しいと思われます。

いずれにしても、このような様々な検討を通して、再び月探査、とりわけ日本の月探査に関心が集まるということを、私としては期待したいです。