待ちに待った知らせがやって来ました。純民間資金で月面到達を競うグーグル・ルナーXプライズの中間賞が26日(現地時間)に発表されました。日本から唯一参加しているチーム「ハクト」は移動部門での賞を受賞し、50万ドル(日本円で約6000万円)を獲得することとなりました。

前回のブログでもご紹介しましたが、グーグル・ルナーXプライズは、純民間資金で探査機を開発した上で月面に最初に到達し、月面から高精度の画像を送信することに成功したチームに対して、2000万ドル(日本円で約24億円)という巨額の賞金を提供するという、技術開発レースです。ただし、到達の期限は2016年末(つい先月までは2015年末とされていましたが、1年延長されました)となっており、ここから少しでも遅れたら、いくら月面到達に成功しても賞金はびた一文払われないという、過酷なレースでもあります。

ただ、開発にはあらかじめ資金が必要であり、いくら高度な技術力があるからといっても、そう簡単に資金を集められるというものではありません。そこで、グーグル・ルナーXプライズにエントリーしている18チームのうち、特に技術力が高いと主催者側が認定した5チームを対象にして、マイルストーン賞(中間賞)というものを与えることになりました。
この中間賞とは、技術力が特に優れているチームに対して賞金を(あらかじめ)授与することで、チームに資金供給を促すとともに、主催者からの「お墨付き」を与えることで、資金を他からより得やすくするという狙いがあります。

中間賞にノミネートされていたチームは、以下の5チームでした。

中間賞は今回、3つの部門に分かれての授与となりました。

◯着陸部門(各チームにそれぞれ100万ドル=日本円で約1億1800万円)

  • アストロボティック
  • チーム・インダス
  • ムーン・エクスプレス

◯移動部門(各チームにそれぞれ50万ドル=日本円で約5900万円)

  • アストロボティック
  • ハクト
  • パートタイム・サイエンティスツ

◯写真・動画撮影部門(各チームにそれぞれ25万ドル=日本円で約2900万円)

  • アストロボティック
  • ムーン・エクスプレス
  • パートタイム・サイエンティスツ

3部門すべてで賞金を授与されているアストロボティックの強さが目立ちます。また、ムーン・エクスプレス、パートタイム・サイエンティスツが2部門での受賞で、これまた強さを見せています。チーム・インダス、ハクトは1部門での受賞でした。

各部門については以下のような内容となっているようです。

◯着陸部門
軟着陸に必要となるハードウェア・ソフトウェア。各チームについて次のような技術開発の要素を検証。

  • 月までの飛行における姿勢制御技術
  • 月までの飛行における軌道決定、追跡技術
  • 月着陸における誘導制御技術
  • アビオニクス
  • 推進系
  • 着陸脚または着陸に必要となる装置
  • 熱制御

◯移動部門
グーグル・ルナーXプライズの要件である、月面での(最低500メートルの)移動を可能にするための次のような要素技術を検証。

  • 移動用のアクチュエーター(車輪、スラスターなど)
  • アクチュエータ―に対する場所の指示、移動、速度制御
  • 着陸機からの移動機(ローバー)の展開技術
  • 距離測定のためのハードウェア・ソフトウェア技術
  • 着陸機、または他の手段を利用した、月面上でのローバーの交信技術(地球までのデータ伝送技術)
  • 他のサブシステムとのインターフェース

◯写真・動画撮影部門
グーグル・ルナーXプライズの要件である、月面での高精度画像(映像)の撮影を可能とする次のような要素技術を検証。

  • 光学系(レンズやミラーなど)
  • 検出器やそれに関連した電子系
  • メカニズム(焦点合わせ、固定・開放メカニズム、シャッター、フォーカス)
  • グーグル・ルナーXプライズを受賞するに足る画像・映像処理の技術があるかどうか
  • 着陸機、または他の手段を利用した、月面上でのローバーの交信技術(地球までのデータ伝送技術)
  • カメラについての熱制御技術
  • 他のサブシステムとのインターフェース

さて、今回の賞金の授与方法ですが、まず、月面にいちばん乗りしたチーム(トップ賞: Grand Prize)及び2番手となったチーム(2番手にも賞金がつきます: Second Place)については、その受賞が確定した時点で中間賞分の賞金が差し引かれることになります。また、他のチームについてはこの賞金を授与することになります。これが何を意味するかというと、今回中間賞の対象に選ばれなかった残り13チームについても、まだトップ賞および第2位の賞を授与する可能性はある(あるいは「してよい」)ということになるわけです。
そのため、スポンサーであるグーグルは、賞金の規模を従来より増やし、総額4000万ドル(日本円で約47億円)にすることを検討中です。

本件について、移動賞を受賞したハクトはコメントを発表しています。チーム代表の袴田武史さんは、エンジニア全員の成果だと努力をたたえた上で、「技術は十分実証できたので、さらに資金的にも協力していただけるスポンサーを見つけ、歴史を創ることを実行したいです。」と、今後の開発への意気込みを語っています。
また、月面ローバーの技術開発を主導している、東北大学工学部の(そして、私の友人でもある)吉田和哉教授は、「私たちの真のゴールはその先にあります。中間賞に向けての開発・試験で得た知識や経験を反映して、本当に月面上を走りまわる日を目指して、開発を続けていきます」と、力強く宣言しています。

なお、ハクトは同時に、今回新たに、IHIとジグソー株式会社、2社からのスポンサー契約が成立したことを明らかにしました。民間からの資金が順調に開発に向けられることで、今後、月着陸機の開発、月面へ到達するための輸送機(ロケット)の手配に一段と弾みがつくことが期待されます。

私自身も、ハクトの技術力の高さは理解しておりましたし、その技術力の高さにも(仲間がやっているということもありますが)信頼を置いています。今回、3部門でアストロボティックが受賞し、ある意味圧倒的な力を見せつけているところが非常に「心配」ではあるのですが、ハクトも受賞により、特に定評があるローバーでの技術力の高さを示したことで、今後のチャンスに大いに期待したいと思います。