アメリカ初の宇宙飛行士であり、月探査機「グレイル」に搭載された教育目的の月撮像カメラ「ムーンカム」のプロジェクトを率いていた、サリー・ライドさんが亡くなりました。すい臓がんとの長い戦いの末、7月23日、62歳での生涯を閉じました。
サリー・ライドさんはロサンゼルス生まれ。1968年に地元高校を卒業してスタンフォード大学に入学しました。ここで物理学の博士号を含む4つの学位を取得、一方ではテニスの名プレーヤーとしての名も学内で馳せるなど、文武両道の大活躍をしました。
ライドさんがNASA宇宙飛行士に選抜されたのは1979年でした。このときは8000人の応募者の中から選ばれ、その中から29人の男性、5人の女性が候補として選ばれました。その後、5年間の訓練の後、1983年6月18日に打ち上げられたスペースシャトル「チャレンジャー」で初飛行を行いました(STS-7)。これで、アメリカ初の女性宇宙飛行士という栄冠を獲得しました。
彼女は1984年10月5日に打ち上げられたスペースシャトル「チャレンジャー」(STS−41G)で2回目の宇宙飛行を行いました。その後、3回目の飛行も予定されていましたが、彼女の任務は、皮肉にも2度の飛行で搭乗した「チャレンジャー」の爆発事故調査委員会でした。
その後、1987年にNASAを退職、カリフォルニア大学サンディエゴ校で物理学の教授に就任しました。2001年、彼女は「サリー・ライド科学財団」を設立、若い女性が科学や数学、工学などに関わる機会を増やす教育プログラムを推進してきました。
サリー・ライド科学財団が行ったプロジェクトの1つが、月探査機「グレイル」に搭載されているカメラ「ムーンカム」です。全米の中学・高校からの月表面の撮影依頼を受け付けて、子供たちに宇宙への興味を広げる役割を果たすと共に、このカメラの運用はカリフォルニア大学サンディエゴ校の学生たちが受け持ち、彼らにとっては実際の探査機運用を学ぶ機会を与えるという2つの大きな意味を持つ、野心的でありながら非常に教育的配慮にあふれたプロジェクトです。
月探査機「グレイル」の探査責任者であるマサチューセッツ工科大学のマリア・ズーバー教授は、彼女の訃報に触れて、このような声明を出しています。

私はサリー・ライドさんをよく存じ上げています。このような文章が書けるということも光栄だと思っています。サリーとは、彼女の最も良い部分を共有できた、私はそう考えています。それにより、多くの人と共にいろいろなことが成し遂げられたことは確かです。彼女の最良の部分、それは、科学と教育への愛、それも、ものすごく深い愛情です。
一般の方と同じですが、私自身、サリーとの最初の出会いは、メディア経由でした。彼女がアメリカ初の宇宙飛行士を目指して訓練を続けている姿でした。スペースシャトルミッション(STS−7)で彼女が初飛行を行ってアメリカ初の女性宇宙飛行士となったとき、私は彼女のことについていろいろ調べ、そして、密かに「彼女のようになれたらいいなぁ」と思ったものです。しかし、実際のところサリー・ライドになれたのはサリー・ライド本人以外にはいませんでした。それは、彼女と直接お会いしたときにわかったことでした。
10年前くらいになるでしょうか。彼女がNASAでの仕事をすべて終え、財団を立ち上げたとき、私たちは共に、もっと若い女性に将来の科学に貢献してもらいたいと、科学イベントで熱弁を振るったものです。そこに1000人以上の若い女性がいた、というのも、サリーの知名度があったからでしょう。でも、それだけ多くの方に興味を持たせることができたのは、ひとえに彼女の強い意気込みと未知への好奇心だと思います。そして、忘れてはならないのは、サリーのコミュニケーション能力です。多くの聴衆を前に、彼らの未知を既知へと変えていく力。これらこそが原動力だったのです。
その日から私たちは友情という絆で結ばれたのです。私が自ら、科学ミッションの責任者となったとき、最初に連絡をしたのはサリーにでした。私の野心的なミッション(グレイル)に加わってもらえないかと…でも、私は答えをもう知っていました。何しろ、サリーが大好きな「挑戦」なのですから。
2011年9月、「グレイル」が打ち上げられたとき、サリーのビジョンである「ムーンカム」が一緒に打ち上げられました。ムーンカムでは、アメリカの中学・高校生が、NASAの探査機に搭載されているカメラを操作することができ、月表面の写真を送るコマンドを送信できるのです。38万キロも離れたところにいる探査機から彼らが写真を受け取るとき、彼らはより価値のあるものも一緒に受け取るのです…月についての知識、そして宇宙についての知識、さらには宇宙の中における私たちという正しい認識を。
かけがえのない友人を失ったことは本当に悲しくてなりません。しかし、この悲しみは、私が彼女を深く知っていたという誇りと、彼女から多くのことを学んだということで、癒されていくと思います。そのこと、そしてサリーがこれまで私に教えてくれた数えきれない多くの事柄は、私に将来への目を見開かせてくれるでしょう。そして、サリー・ライドの精神が次に見せてくれるものに、私はきっと驚きの目をもってみることになるでしょう。

・サリー・ライド氏死去に関するNASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/jul/HQ_12-252_Sally_Ride_Obit.html
・ズーバー教授のメッセージ (「グレイル」プロジェクトサイト: 英語)
  http://solarsystem.nasa.gov/grail/newsdisplay.cfm?Subsite_News_ID=30119&SiteID=2
・サリー・ライド科学財団 (英語)
  https://www.sallyridescience.com
・グレイル (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/GRAIL/