先日、探査データから詳細な月面の重力図が作成された月探査機グレイルですが、現時点では基本探査期間を終え、延長探査期間に入っています。
しかし、いよいよ探査も終盤となってきました。NASAでは、グレイルの探査を17日午後2時28分(アメリカ太平洋標準時。日本時間では18日午前7時28分)に終了し、探査機を南極付近の山に制御衝突させる予定としています。
なお、制御衝突とは、探査が終了した探査機をただ適当に月面のどこかにぶつけるのではなく、あらかじめ予定された場所へ衝突させるということです。かつての日本の月探査機「かぐや」でもこのような方法で探査機を最終的に月面に衝突させて、探査を終了しました。
探査機の軌道を変え、衝突地点に向かわせるための軌道変換は、14日から行われる予定です。
衝突場所となる山は、月の北極近く、ゴールドシュミット・クレーターの近くに位置しています。現在の予定では、最初に落下するのは、2機のうち「エブ」の方で、時刻はアメリカ太平洋標準時で2時28分40秒と予測されています。そして、その20秒後にもう1機の「フロー」が月面に衝突する予定となっています。
衝突時の速度は秒速1.7キロメートルにも達します。ただ、いつも月面に物体が衝突する場合に「期待」される月面での閃光などですが、今回の場合衝突地点を含む領域が影になっているため、地球からはみえません。
今回探査機を落下させる理由は、探査機の制御などに使われている燃料が残り少なくなってきたためです。探査機が制御できなくなったまま月の周りを回り続けると、将来の月探査機に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、燃料があるうちに、予定された場所に最終的に探査機を衝突させてしまうわけです。
今回の制御衝突の前に、グレイルの2機は最後の実験を行う予定です。これは、なんと最終的に衝突直前まで燃料タンクが空っぽになるまで燃料を噴射して、残っていた燃料の量を正確に測るというものです。これが何に役立つかというと、将来の探査で、月面における燃料の消費などをより精密に決めるためのモデル作りができるのです。
実際のところ、両機にどのくらいの燃料が残っているかはわかりません。そこで、今回は衝突の何時間も前から探査機のエンジンを作動させた上で徐々に高度を下げ、しばらくは表面ぎりぎりの高さを飛行し、最終的に高い山に衝突させるという計画になっています。
「私たちの探査機はいよいよ最後を迎えようとしているが、間違いなくいえることは、探査機は回転しながら落ちていくということだ。最後の軌道を回る途中でも、彼らは将来の探査のための実験に取り組むことになる。」(グレイルのプロジェクトマネージャーである、NASAジェット推進研究所(JPL)のデビット・レーマン氏)
今回のように、制御衝突ギリギリまで何らかの実験を行うというミッションは極めて異例といえます。これについてレーマン氏は、「このような形で探査を終了するためには、綿密な探査シナリオの検討と工学的な技術が必要となる。こういう挑戦は探査中に何回もあったし、私たちみんなの力ですべて成功裏に終わってきた。しかし、ここにいる誰もが、月の山に向かって飛行したことがない。(今回の制御衝突とそれに伴う実験は)私たちにとってはじめてのこと、そのことは確かだ。」と、自信の一方で緊張感を漂わせる発言をしています。
一方、グレイルの主任科学者であるマサチューセッツ工科大学のマリア・ズーバー教授は、「いよいよお別れのときがやってきた。2機の探査機は、間違いなくグレイルというファミリーの仲間だった。彼らの働きで、惑星科学は非常に大きな進歩を遂げたのだ。」と、こちらはちょっと感傷的な形で、探査の終わりの気持ちを語っています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/dec/HQ_12-434_GRAIL_Mission_Ends.html
・グレイル (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/GRAIL/