NASAの月探査機グレイルは、日本時間で18日の朝(アメリカ太平洋標準時で17日昼)に、月の北極地域に落下し、探査を終了しました。落下地点に生成されたクレーターには、アメリカ発の女性宇宙飛行士であり、本探査でも教育用カメラの運用などで力を尽くし、今年7月に亡くなったサリー・ライドさんの名前を取り、「サリー・ライド衝突点」と命名されました。
落下は、もともと予定していた地点へ落下させる「制御衝突」という形を取りました。その準備のため、14日(金曜日=現地時間)から探査機は徐々に高度を下げ、月の北極地域にある衝突点の山へ向けて高度を下げていきました。2機の探査機はそれぞれ、アメリカ太平洋標準時で17日午後2時28分51秒(日本時間で18日午前7時28分51秒)、及び同じく午後2時29分21秒(日本時間で18日午前7時29分21秒)、月面に衝突しました。衝突時の速度は秒速1.7キロメートルでした。衝突地点である「サリー・ライド衝突点」は、月の北極地域にあるゴールドシュミット・クレーターの近くにある、高さ約2.5キロメートルの山の南側側面にあたります。
グレイル計画の主任科学者でもあり、教育用カメラ「ムーンカム」で、サリー・ライドさんと一緒に仕事をしてきたマサチューセッツ工科大学のマリア・ズーバー教授は、「サリーは、宇宙に行き、次世代の若い人たちへの支援を行い、そして今回のミッションに参加し今日の成功をもたらす成果を生み出し、今日ようやく、彼女自身の仕事が終わったことになる。その日に、彼女の名前を冠した地名を月の一角に設けることができたことは、私にとっても本当に誇りである。」と述べています。
サリー・ライドさんは、自身が立ち上げた青少年の科学教育振興のための財団「サリー・ライド・サイエンス」を通し、今回の探査に「ムーンカム」という機器を搭載していました。このカメラは、アメリカ(そしておそらくは世界)の月・惑星探査史上初めて、教育のためだけに使われるカメラでした。
サリー・ライドさんは、17ヶ月にわたるすい臓がんとの闘病の末、今年7月23日に死去しました。
このムーンカムは、探査中に合計11万5000枚にもわたる写真を撮影しました。撮影対象は、アメリカ全土の中学校の生徒たちの提案によって選ばれ、撮影された写真は彼らに送られています。さらに、探査機につけられた愛称「エブ」と「フロー」(それぞれ「引き潮」と「満ち潮」の意味)も、アメリカ全土の子供たちから寄せられた命名コンテストにおいて、サリー・ライドさんと探査チームのメンバーが選んだものです。
メリーランド州選出のバーバラ・ミクルスキー上院議員は、今回の命名の意義について、「サリー・ライドさんは、その人生を通して、休むことなく私たち…そして特に女の子たちに…学ぶこと、そして疑問を持ち続けることの重要性を語ってきた。そのことは私たちの心の中に深く刻まれている。そして、彼女が子供たちをNASAの探査の一員として迎え入れた努力は、今日、衝突点に彼女の名前が刻まれたことで、大いに報いられたと思う。」と、ライドさんの努力を絶賛しています。
さて、グレイル探査機は、以前のブログでも述べた通り、衝突直前まで試験を行うという、こちらも最後まで活躍する探査機でした。衝突50分前から探査機のエンジンを作動させ、燃料が空になるまでエンジンを作動させました。これは、燃料タンクの中にどのくらい燃料が残っているかを調べるための試験です。将来の探査に向け、どのくらいの燃料が必要になるか、今後の探査の際の参考になると期待されます。
この試験の結果ですが、エブのエンジン作動時間は4分3秒、フローの方は5分7秒ということでした。
今回の衝突で探査機はほぼバラバラになったとみられています。衝突では浅いクレーターが生成され、そのクレーターの大きさは、強力な解像度を誇るルナー・リコネサンス・オービターの画像で数週間後に明らかになると思われます。
グレイルの打ち上げは2011年9月、2機の探査機が月に到着したのは、ほぼ1年前となる12月31日及び1月1日でした。今回の月面への制御衝突(目標地点を決めての衝突)は、探査機の燃料が残り少なくなり、これ以上周回して探査を継続できないということから決定された措置です。約80日間の基本探査期間、そしてその後の延長探査期間を通じて取得されたデータは膨大な量に上ります。そして基本探査期間に取得されたデータを元に、このほどこれまでで最も精密な月の重力場の地図が完成しました。
「2機の探査機がいなくなるのは本当に残念だ。でも科学者たちは、これから何年にもわたって、この2機がとってきたデータの解析を行うだろう。それがそもそも、私たちが月に向かった理由なのだから。さよなら、エブとフロー。そして、ありがとう。」(グレイル計画のプロジェクトマネージャーである、NASAジェット推進研究所(JPL)のデビット・レーマン氏)
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/dec/HQ_12-438_GRAIL_Impact_Site_Sally_Ride.html
・グレイル (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/GRAIL/