3月から科学探査を行なっていた月探査機グレイルは、予定よりも早く、基本探査期間を達成しました。NASAがこのほど発表しています。
グレイルは2機の探査機で構成される珍しい月探査機で、月の重力をこれまでにない精度で調べることで、月の内部構造を明らかにし、月の成因や進化の謎に挑むことを目的にしています。2機の探査機には、潮汐にちなんで、「エブ」と「フロー」(それぞれ引き潮と満潮)という名前が付けられています。
グレイルは、基本探査期間を3ヶ月としていました。これは、ちょうど月を3周する日程にあたります(月は自転周期が約30日なので、北から南へと回るグレイルであればちょうど3回、同じ地点を通過することになるわけです)。
3月8日(アメリカ太平洋時間)に始まったグレイルの基本探査期間は、89日で終了することになりました。5月29日(同)に基本探査期間の最後のデータが送られました。アメリカ東部時間午後1時(日本時間では29日午前2時)、探査機が豊かの海の上空を飛行しているところで、探査機の機器電源がオフにされました。
グレイルの主任研究者であるマサチューセッツ工科大学のマリア・ズーバー教授は、基本探査期間のデータはまだ半分ほどしか解析に手が付けられていないと語り、「グレイルが送ってきたデータは予定の99.99%に達している。探査機、そして深宇宙ネットワーク(通信網)が非常に順調だったからだ。」と述べています。
グレイルは今後延長探査期間に入ることになる予定で、その期間は8月30日から12月3日までを予定しています。また、機器はこの8月30日まで電源を切られたままになる予定です。
この間、6月4日には月食があり、月(そして探査機)は地球の影に入ることになります。当然、太陽の光が当たらないために探査機の温度が下がりますし、月食の前後で探査機の温度は急激に変化します。しかし、技術者たちはこの点に関しては心配をしていません。
グレイルのプロジェクトマネージャーである、NASAジェット推進研究所のデビッド・レーマン氏は、「当初、探査はこの月食の前に全て終わらせる予定であった。だが我々は、2機とも月食を生き延びると確信している。」と述べています。
延長探査期間には、さらに詳しい重力データを取得するために、探査機の高度をさらに下げて探査を実施する予定です。グレイルは月上空50キロという非常に低い高度を飛行しています。これほど低い高度では、月の重力の影響を極めて強く受け、軌道が不安定になります(そのこともあって、「「かぐや」」では高度は100キロ、中国の嫦娥1号は200キロという、より高い高度を周回するように設定していました)。
延長探査期間での高度は、なんと23キロという、いわば地表すれすれともいえる高度になる予定ですが、こうなってくると月の表面の凹凸(特に山の部分。最大高度は約8キロ)なども心配です。この点については、技術者は「探査機は上空を飛行するたび、つい反射的に山を引っ張りたくなっちゃうんじゃないか」と冗談めかして語っています。
ところで、このグレイルという探査機は、月・惑星探査機では世界ではじめて、教育目的でカメラを搭載しています。この「ムーンカム」というカメラは現在までに7万枚以上の写真を撮影しました。ムーンカムのプロジェクトを率いているのはアメリカ初の女性宇宙飛行士のサリー・ライドさんで、彼女の財団が全面的にバックアップしてプロジェクトを進めています。