政府の宇宙開発戦略本部の下に設けられている「月探査に関する懇談会」では、このほど、日本の月探査に関する長期戦略をまとめ、発表しました。
「我が国の月探査戦略」と題されたこの冊子では、月探査の目的について

  1. 太陽系探査のための宇宙技術を自ら確立
  2. 世界トップレベルの月の科学をいっそう発展
  3. 国際的プレゼンスの確立

の3つを挙げています。
これに基づいて、月探査の目標を、2020年に月の南極域に世界ではじめてロボットにより探査基地を構築することとしています。
この探査では、地震計を設置して1年以上にわたって月の地震を観測し、月の内部探査を行うほか、ロボットにより数ヶ月間にわたる着陸点周辺探査、岩石採取とサンプルリターンを実施する、としています。
この探査に先駆け、2015年には月の表側に探査機を無人で軟着陸させ、短期間(ただし、月の1日を超える)の探査を実施する計画です。月の夜は14日間もあり、その間に温度はマイナス100度まで下がるため、以下に月の夜を克服し、機器を正常に保つかというのは技術的にも大きな挑戦です。2015年の探査では、そのための技術を試そうというものです。
また、探査ではローバーも用いることを予定しています。
さらに、2020年以降の探査については、「より高度なロボット探査、有人による探査の在り方などについて検討を行い、2020年よりあとのさらなる発展的探査を目指す。」と記述し、他国の動向や技術の発展動向などを見据えて柔軟に対応するということをうたっています。
なお、以前の探査で話題になった「二足歩行ロボットによる月探査」については、2020年の探査において「ロボットについては、現時点では技術の実現性や確実性の観点から2015年のロボットの発展型であるローバタイプが有力であるが、今後、最先端のロボット技術を積極的に取り入れるという考え方の下に研究開発を進め、2015年頃を目処に適用可能な最適な技術を選定する」としています。また、この記述の注釈で「2020年より後に、人との連携などが想定される場合には、二足歩行タイプの活用も考えられる。」と、含みを残した形にしています。
月探査において将来的に有人探査を実現する基礎として、報告書では、2020年頃までに、その根幹となる有人往還システム(人間を乗せて、宇宙ステーションや月を往復できる宇宙機)について「その鍵となる基礎段階の研究開発に取り組み、実現の見通しを得る。」という表現にとどめています。
今回の報告書は、各国が月探査に関していわば「競争」を繰り広げる中、日本としての月探査への向き合い方をはじめて体系的に示した、という点で評価されます。しかし、2015年の最初の探査までに、この計画での資産は600~700億円の予算が毎年必要となるとしており、厳しい財政状況の中、特に宇宙開発予算の大幅な伸びが見込めない中で、このための資金確保、さらにはそのための国民レベルでの合意形成などを今後どのように行っていくべきか、政府としての判断が問われているといえましょう。
・「月探査に関する懇談会 報告書(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)の結果、及び報告書の取りまとめについて (宇宙開発戦略本部)
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/tukitansa/100730matome.html
・報告書「我が国の月探査戦略」 (PDFファイル)
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/tukitansa/100730houkokusho.pdf