ヨーロッパ宇宙機関(ESA)はこのほど、ヨーロッパでははじめてとなる、月着陸機の開発をスタートさせることになり、詳細な検討のため、EADSアストリウム社との契約を締結しました。
探査計画では、2018年に、月の南極地域に着陸することになっています。ここは永久影などもあり、将来的な有人探査の拠点としてもふさわしい場所です。ただ、非常に起伏があってクレーターも多く、着陸にはそれなりの危険が伴います。
そのため、着陸機は、着陸する場所(現在はクレーターの縁を想定しています)に精密に誘導される必要がありますし、岩や斜面などを避けた着陸が必要です。
月は、世界の14宇宙機関が共同でまとめた「グローバルな探査戦略」という有人探査プランの中でももっとも有力なターゲットとして考えられています。
ESAの有人宇宙飛行部門長であるシモネッタ・ディ・ピッポ氏は、今回の契約が大きなステップへの第一歩だとし、「先頃、アメリカ、ロシア、日本と、国際宇宙ステーション(ISS)をさらに10年間運用延長を行う契約に調印した。我々はいま、その先のステップの準備を進めており、ヨーロッパを他の競争相手と同等に位置づけるため、グローバルな探査という責任の中で位置づけるという努力をしている。」と語っています。
また、EADSアストリウム社の上級副社長であり、今回の調印に出席したマイケル・メンキング博士は、「ヨーロッパ宇宙補給機(ATV)で実証された、自動ランデブーやドッキングなどの能力は、アストリウムの高い技術力を示している。今回の研究はATVで培われた技術を基盤とし、この研究によってさらにキーテクノロジーを推し進めることができるだろう。それなしには無人での月着陸は不可能だ。」と述べています。
現在、この探査計画はB-1段階となっており

[注]、予備設計やフィージビリティスタディなどを経て実現されていきます。
現段階で重要なのは、着陸想定域の地形の詳細な分析です。そもそも月の南極地域はデータに乏しく、いくつかの探査によってようやくデータが得られはじめた、というところです。その分析が終わったあとで、無人着陸機のデザインとなります。予備システム要求レビュー(SRR)は2012年を予定しています。
(注)一般に探査機の開発段階は5つに分けられます。フェーズA(概念検討)、フェーズB(詳細検討)、フェーズC(基礎開発)、フェーズD(実機開発)、そしてフェーズE(打ち上げ及び運用)です。フェーズB1に入ったということで、現在は詳細検討の最初の段階にあると位置づけられます。
(注) ATV…Automoated Transfer Vehicle。ISSへ無人で物資などを輸送する無人の宇宙船。日本のHTVに相当する。

ESAが開発に着手した月無人着陸機の想像図

【ESAが開発に着手した月無人着陸機の想像図。Image: ESA】
・ESAの記事 (英語)
  http://www.esa.int/export/esaCP/SEMUV2KOXDG_index_2.html