以前、本ブログの記事で、中国が有人月面基地を持たないかも知れないという情報を流しましたが、少なくとも研究というレベルではいろいろなことが進められているようです。人民網日本語版が伝えています。

北京航空航天大学では、このほど閉鎖環境系での生活のため、若手研究者3名が100日以上にわたって生活を行いました。このような閉鎖環境系での生活実験は、古くはバイオスフェア2、最近ではMARS500などがありますが、今回もほぼ同様の設備での実験のようです。
実験担当者は(宇宙ステーションの「天宮」にかけて)「月宮1号」と名づけたそうですが、この施設は水の完全再利用、内部での植物の栽培などが行えるようになっており、外部とは電話やインターネットのみでの通信しかできません。
広さは100平方メートル、そのうち42平方メートルが「居住キャビン」、58平方メートルが植物キャビンとなっています。この100平方メートルという広さは、日本の平均的な住宅の大きさとほぼ等しいようです。3.3平方メートルが1坪ですから、坪に直せば大体33坪。ただ、その半分以上を植物栽培エリアにとられているため、居住スペースとしてはかなり狭い感じです。

今回は内部光源を利用した植物栽培を行い、小麦など5種類の穀物、ニンジンや空心菜(さすが中国)などの15種類の野菜、果物としていちごの栽培が行われました。
植物はもちろん、食用としても重要ですが、人間が吐き出す二酸化炭素を光合成により酸素に変えてくれる重要な役割を担っています。
また、この閉鎖施設では動物性タンパク質として虫(ミールワーム)を飼育しました。虫を食べるなんて気持ち悪い!と思われるかも知れませんが、将来の月面基地や火星基地でのタンパク源として、虫は注目されています。日本でも火星基地の食料源としてカイコが有望視されています。

今回の実験主任の劉さんは、かつて失敗に終わった閉鎖環境系実験「バイオスフィア2」を意識してか、それとははっきり異なると明言しています。地球を狭い環境にまるごと再現するのではなく、人間が生存するのに必要なものを揃え、人間の生存に最適化されたシステムを組み、それらに必要な栄養や酸素などの量を計算、それに基づいて植物や虫、酸素の量などをコントロールしています。

もちろん、月面と全く同じ環境を作れたわけではありません。例えば、月面では地球に比べ重力は6分の1となりますが、そのような環境を再現できたわけではありません。月面に降り注ぐ放射線やいん石なども当然のことながら再現されていません。それでも、この実験はたいへん有意義であったとのことで、今後、課題を抽出し、将来的な検討に活かすとのことです。

中国は将来的に人間(中国人)を月に運ぶことを宇宙開発の大きな目標に据えていますが、月面基地に関してはあまりこれまで明言されてきませんでした。今回の研究もあくまで研究目的であり、中国の宇宙開発計画としての動きではないようです。ただ逆にいいますと、こういった閉鎖環境系での生活は火星基地などにも応用できるわけで、こういった研究で先行しているアメリカやヨーロッパ、ロシアに追いつこうとしていることは考えられます。