中国初のサンプル・リターン機を目指して、2017年の打ち上げが計画されている嫦娥5号。開発が本格化してきたためでしょうか、このところ報道が少しずつ増えてきています。

そんな中で、嫦娥5号のサンプル・リターン、というより、地球帰還のメカニズムについて、これまでの月・惑星探査機とは全く違う手法がとられるということを、中国・科技日報の報道を人民網日本語版が伝えています。ちょっと長めになりますが、重要ですので引用してみます。

嫦娥5号は、軌道モジュール・着陸モジュール・上昇モジュール・帰還モジュールの4つの部分からなります。この内、軌道モジュールと帰還モジュールは軌道上に残り、着陸モジュールと上昇モジュールは一緒に月面へと降りていきます。
着陸モジュールはサンプルを採集後、上昇モジュール内の格納装置にサンプルを格納、作業終了後、上昇モジュールが月面から上昇し、上空で待機している軌道モジュール・帰還モジュールと合体します。さらに、サンプルは帰還モジュールへと移送され、その後上昇モジュールは切り離されます。
こうして、軌道モジュールと帰還モジュールが合体したまま地球帰還軌道に入り、地球から数千キロに至ったところで両者が分離、帰還モジュールだけがそのまま地球大気圏内に突入し、地球帰還を果たす(着陸する)ことになります。
このように、今回嫦娥5号のミッションのアウトラインが公表されたということは、設計段階がほぼ終了し、開発へ移行している(移行した)ことを意味するものと思われます。

この他にも、この記事には注目すべき点が2つあります。
1つは、打ち上げ場所が、現在建設が進んでいる海南島の海南宇宙センターになることを、要人がはじめて認めたという点です。従来から海南宇宙センターは将来の神舟シリーズや月・惑星探査機を見越して、比較的大型のロケットを打ち上げるために作られているとされていましたが、今回の発言で、そのことが確かめられたことになります。サンプル・リターンともなると非常に大がかりなものになります。一方、打ち上げ場所は赤道に近ければ近いほど(南であればあるほど)自転の効果でより効率のよい打ち上げができます。中国本土で最も南に当たる海南島に宇宙基地を建設するということは、中国の宇宙開発の次のステップを見据えた大きな計画ということができます。

もう1つは、今年中に嫦娥5号の実験機を打ち上げると言明した点です。これも以前から噂となっていましたが、やはり要人が発言したことでその内容そのものだけでなく、時期も決まりました。
今年のどこかの時点で打ち上げられる模様のこの試験機は、上で述べた軌道モジュールと帰還モジュールの動きを確認するためのもので、月の周りを周回した上で帰還する、という手順(つまり、嫦娥5号ミッションの中から月面への着陸・サンプル回収・上昇を除いたもの)を実施するということになります。
さすがの宇宙大国・中国といえども、複雑な工程を踏まなければならないサンプル・リターンは一発目での成功を確信することができないため、こういう慎重なステップを踏んでいくことにしたのだと思われますが、逆にいいますと、これだけ中国の宇宙開発、とりわけ月・惑星探査は、慎重かつ確実なステップを踏んで実施されているのだということがわかります。