ここのところ情報が相次いでいる中国の月探査機「嫦娥」シリーズ。来年打ち上げられ、史上初の月の裏側への着陸を目指す嫦娥4号についてまた新しい情報が入ってきました。もう1つの史上初「月面での生物飼育実験」を行うとのことです。

人民日報が重慶晨報(Chongquing Morning Post.朝刊紙)の報道として伝えたところによりますと、嫦娥4号は植物の種と昆虫の卵が入ったコンテナが搭載されるということです。なお、この機器の開発者であるZhang Yuanxun氏によれば、植物はジャガイモとシロイヌナズナ(シロイヌナズナは遺伝子に関する実験などでよく用いられます)、昆虫はカイコとのことです。特殊なアルミニウム合金製のこのコンテナは、月面において植物や動物の成長過程を調べることを目的にしていると、人民日報は報じています。もちろんこのようなデータは、将来の有人基地における植物や動物の生育にも貴重なデータになることでしょう。

Zhang氏によれば、カイコは二酸化炭素を発生し、その二酸化炭素をジャガイモが光合成で吸収するという「ミニ地球」ができる可能性があるとのことですが、一方ではそのためのエネルギー源の供給や温度調整などが非常に大きな課題とのことです。また、特に月面は昼間は100度、日の当たらない夜間はマイナス100度まで冷えるという過酷な世界ですので、長期にわたるこのような生物実験では、この温度差から中を守る必要があります。
そのため、容器には特殊な断熱層が施され、また夜間などの日が当たらない状況に備えて光を発するパイプが装備されるそうです。こういった装置の駆動には強力なバッテリー(どのようなバッテリーか詳細は書いてありません)が使用されるとのことです。

機器開発には重慶大学をはじめとした国内28の大学が参加し、機器の長さは18センチメートル、重さは3キログラムとのことです。個人的には意外と大きな装置のように思います。

「ジャガイモ」といえば、昨年(2016年)に日本で公開された映画『オデッセイ』(原題: 『火星の人』)を思い出される方も多いのではないでしょうか。主人公が火星にひとりぼっちで取り残されながらも、身の回りのあらゆる材料でジャガイモを飼育し、それによって生き延びていくというストーリーは印象深いものでした。実際、火星の土(もちろん模擬の土ですが)を使ったジャガイモ飼育に成功したというニュースもあり、またジャガイモ自身がエネルギー価が高いこともありますので、将来実際に宇宙での食物栽培が行われるときに候補となる作物ではあると思います。
一方、カイコについても同様です。「カイコ(昆虫)を食べる」というと大変気持ち悪いイメージを持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、実は、火星(や宇宙空間)における食物として、高栄養価のカイコはその筆頭といってもよい候補です。日本でもカイコを粉末にしてクッキーに混ぜるなど、食物としての利用が研究されており、将来の月面、あるいは火星滞在、さらにはその往復帰還の飛行などで、カイコを食料として利用することは大いにありうる話です。

今回の実験がそれらを念頭に置いたものなのかどうかはわかりませんが、選ばれたものがものだけに、将来的に中国が恒久的な月面基地、すなわち長期にわたって人が滞在する基地を作ることに非常に熱心に動き始めたのではないか、という予想がますます強く感じられます。