打ち上げが近づいているとされる中国の月探査機「嫦娥2号」ですが、このほど人民網日本語版は、嫦娥2号が、嫦娥1号に対して6つの「技術的イノベーション」(進化)を実現していると報じました。
9月10日付の「科技日報」の記事を引用する形で、月探査プロジェクトに所属する呉偉仁氏の談話として伝えたものです。
この記事の中で、6つのイノベーションとして、以下を挙げています。

  • 月軌道への直接投入。嫦娥1号は地球軌道にとどまったあと月へ向かったが、嫦娥2号は直接月へ向かう。このため、嫦娥1号が月到達に14日かかったのに対し、嫦娥2号では7日間で到達できる。
  • 中国独自開発のXバンドでの深宇宙通信。
  • より低高度での探査。嫦娥1号が高度200キロでの探査だったのに対し、嫦娥2号は高度100キロでの探査を行うため、より高精度のデータを得られることが期待される(これは、インドの「チャンドラヤーン1」や日本の「かぐや」と同じです)
  • 軌道遷移テスト。高度100キロの円軌道から、高度100キロ×15キロへの楕円軌道への遷移実験を行う。
  • 落下カメラを搭載。また、探査機全体のデータ転送能力も向上(データ転送速度が1秒あたり3メガから6メガへ。また12メガでのデータ転送実験も実施)。カメラについても、円軌道で10メートル/ピクセル、15キロの低高度下では1.5メートルという制度を実現する。
  • 月面着陸を目指す「嫦娥3号」の着陸地点選定のための高解像度画像の取得(上記の低高度飛行で実現するとみられる)。

(編集長注)今回、100キロの円軌道ではなく、100×15キロの楕円軌道での飛行を実現するということははじめて公表されました。「かぐや」の場合と同様、おそらくは探査の最終時期に探査機の軌道を変更するという形で実施されるものと思われます。月面の重力場は位置による変動が大きく、軌道は月に近ければ近いほどそのままでは不安定になるため、高度を低く保つためには、高度な軌道制御技術が必要になります。
データ転送ですが、上記の記事ではただ「メガ」としか書かれていませんが、単位はおそらく「メガビット/秒」(Mbps)とみられます。「かぐや」のデータ転送速度が大体数Mbpsでしたので、嫦娥2号はほぼ「かぐや」並みのデータ転送を実現するとみられます。また、12Mbpsでのデータ転送実験は、高精度画像送信を意識したものとみられます。LROなどが高速データ通信を行っているので、それに「対抗」する目的もあるかも知れません。
上記の「6つのイノベーション」をみると、中国は嫦娥2号で本格的に「かぐや」やLROなどと並ぶ性能を持つ探査機を作り上げてきたものとみられます。嫦娥2号が実際にどのようなデータを取得するのか、そして嫦娥3号にどのような形でつないでいくのかを、注意深く見守っていきたいと思います。
・人民網日本語版の記事
  http://j.peopledaily.com.cn/95952/7136530.html