ここのところ、小惑星資源開発の動きが各国で加速しているようにみえます。連休中に掲載した記事では、アメリカだけでなく、中東諸国も小惑星資源開発に興味を示していることが書かれています。
中国も実は以前から小惑星資源開発に興味を持っていたようです。これまではあまり動きがみえませんでしたが、今回人民網日本語版の記事で、「10年以内」という具体的な数字が出てきました。
この記事によると、この「10年以内」という数字を出してきているのは、中国の宇宙開発のトップである葉培建・中国科学院会員です。彼の発言を引用すると、「小惑星の資源開発は、未来の宇宙事業の発展方向の一つとなる。中国が本気で取り組めば、10年以内には模範的なプロジェクトを展開できる。大規模な開発を実現するには、約50年の時間が必要だ」とのことです。
上記発言は注目すべきポイントが3つあります。まず、葉氏のような中国の宇宙開発の重鎮が、小惑星の資源開発を中国の将来の宇宙開発の方向性の1つと規定したことです。中国の国家的な体質、あるいは宇宙開発の形態から考えて、このような発言があれば、今後中国の宇宙開発が小惑星探査、そして小惑星資源開発に力を入れていく可能性が大いに高まったといえるでしょう。
2つ目は「10年」という時間です。ここで、発言の中に「本気で取り組めば」という、いわば注釈がついている点に注目する必要があります。
中国も実際、小惑星探査の計画はあるようですが、現時点で2020年打ち上げを公言している火星探査と比べて、まだ打ち上げ日時や目的となる小惑星を規定できていない小惑星探査は、はっきりいって遅れていると考えるべきでしょう。その意味で今回の葉氏の発言は、「小惑星探査により力を入れるべき」というはっぱともいえます。
発言した場所が小惑星探査に関する検討会の席上だったということで、これに呼応するように、新宇宙探査弁皇室の黄江川氏が、「2021〜2025年中に小惑星探査を実施する予定」と応じたことは、おそらく2020年代後半(実際には上記の数字が多少遅れることを見越す必要があります)に中国が小惑星探査に挑むことを示唆しているものといえましょう。
3つ目は「50年」です。いまから50年というと今世紀後半ということになります。かなり先のようにも思えますが、それに向けて今から準備しておけ、という指示のようにもとれます。
月探査で深宇宙開発の基礎を積み、火星探査で経験を積みつつ、小惑星探査…小惑星資源探査で実利を取る。中国の宇宙開発のルートがみえてきたような気がします。
小惑星資源開発の方向性やその方法については比較的これまでいわれていたことに近く、葉氏はむしろ、海外(とりわけアメリカ)の状況を紹介・解釈しながら、中国に小惑星資源探査の必要性を迫っているようにも感じられます。
記事の中に、「小惑星を月周回軌道もしくはラグランジュ点で捕捉する可能性がある」という一文がありますが、これはNASAが検討している(がまもなくキャンセルになりそうな)小惑星捕獲計画「アーム」の内容に極めて近いものです。中国はNASAのアームについての検討をベースに、小惑星サンプルリターンなどを行う探査を考えているのかも知れません。
このあたり、より具体的な発言内容や検討内容を知りたいところではあります。
この記事から読み取れることとしては、中国も小惑星資源探査に前向きであるということが確実だということです。アメリカ、ルクセンブルク、中東諸国(おそらくはアラブ首長国連邦=UAE)に続き、中国が小惑星資源探査へ手を上げていることになります。
このような状況の中では日本も小惑星資源探査について何らかの形でアクションを起こしていかなければならないと、編集長としては考えています。