2016年に打ち上げ予定のNASAの小惑星サンプルリターン計画「オサイレス・レックス」の目的地の小惑星の名前が、このほど「ベンヌ」(Bennu)と命名されました。アメリカの小学生の命名によるものです。
これまでは1999RQ36という仮符号で呼ばれていましたが、これからは立派に(?)名前「ベンヌ」として呼ばれることになります。

オサイレス・レックスは、アメリカ版「はやぶさ」とも称される、小惑星サンプルリターンミッションです。打ち上げは2016年、小惑星ベンヌへの到着は2018年、そして期間は2023年と計画されています。2年先行して打ち上げられる日本の小惑星探査計画「はやぶさ2」と真っ向から対決するライバルミッションとなります。

今回の命名は、昨年実施された、世界中の子供たちから名前を集めるコンテストにより集まった名前から、最優秀とされたものに決定されました。この名前を提案したのは、9歳のミカエル・プジオ君です。彼は、オサイレス・レックス探査機がサンプルを採集する様子が、ちょうど羽(太陽電池パネル)を広げた鳥のように見えることから、エジプト神話にある不死鳥「ベンヌ」の名前がいちばん似合っていると提案しました。ベンヌはアオサギを模したものとされています。
プジオ君は、この名前がさらに、「上昇するもの」あるいは「輝くもの」といった意味もあるとして、この探査機にふさわしいと提案しています。

オサイレス・レックスに搭載されるサンプル採集装置(TAGSAM: タグサム: Touch-And-Go Sample Acquisition Mechanism)は、このベンヌの表面からサンプルを取得し、地球へと持ち帰ります。ベンヌは炭素に富む小惑星(炭素質小惑星)と考えられており、採集したサンプルは、太陽系の起源だけでなく、私たち生命の起源をも解き明かす鍵になるのではないかと考えられます。
またこの探査は、先日NASAが発表した、小惑星を捕獲して研究するという大胆な探査においても重要な役割を果たします。NASAはすでに、小惑星への有人探査を提案し、ロボットと共に小惑星を探査する構想を発表していますが、オサイレス・レックスはそのさきがけとして、小惑星の発見やその性質の解明に寄与するものと考えられています。

今回のコンテストは18歳以下の子供たちを大将としており、合計で8000人を超える生徒たちからの応募がありました。応募は世界25カ国からに及びました。応募は(小惑星の命名規則から)16文字までの小惑星の名前と、提案理由についての短い説明を送る、というものです。
コンテストは、アメリカに本拠を置くアメリカ惑星協会(TPS: The Planetary Society)とマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所、アリゾナ大学が共同で実施し、この三者が共同で提案した名前を最終的に国際天文学連合(IAU)に提案し、認めてもらうようにするという形をとっています。IAUは小惑星をはじめ、すべての太陽系天体の名前を管理しています。
リンカーン研究所は小惑星の発見のための組織的プログラムを実施しており、この小惑星ベンヌを1999年に発見しています。小惑星の命名は発見者が提案する形となるため、この三者が共同で提案する必要があるのです。なお、アリゾナ大学はオサイレス・レックス計画をNASAと共に中心的に実行しています。

オサイレス・レックス計画の主任研究者であり、今回のコンテストの審査員でもあるアリゾナ大学のダンテ・ローレッタ氏は、「今回のコンテストでは非常に多くの提案があり、そのことがまた、私たちの探査をより多くの人に知ってもらうきっかけになったと思っている。」と、今回のコンテストの意義を強調しています。
また、月・惑星探査に関する普及啓発活動を続けているアメリカ惑星協会のブルース・ベッツ氏は、「今回『ベンヌ』という名前をみたとき、私たちの多くが心を打たれた。提案の中には本当に素晴らしいものも多かったのだが、ベンヌ(鳥)とサンプル採集装置とを比べるという発想はまさに秀逸なものであるといえるだろう。小惑星は、私たちの命のもとでもあると同時に、また命を破壊する凶悪な存在にもなりうる。この2つの両極端な存在であるということを教える、非常に良い機会となったといえるだろう。」と述べています。