2016年に打ち上げられ、2018年暮れに小惑星に到着、約2年半にわたって小惑星の観測とサンプルリターンを行ってきたアメリカの探査機「オサイレス・レックス(オシリス・レックス)」が10日(日本時間11日)、小惑星を離れ地球への帰途に就きました。地球帰還は2023年9月の予定です。

ベンヌ上空を飛行するオサイレス・レックス(オサイレス・レックス)探査機

目的地の小惑星ベンヌ上空を飛行するオサイレス・レックス(オサイレス・レックス)探査機の想像図 (Photo: NASA/ASU)

NASAの発表によると、オサイレス・レックスは10日午後4時23分(アメリカ東部夏時間。日本時間では11日午前5時23分)、メインエンジンを7分間噴射し、探査を続けていた小惑星ベンヌから離脱しました。お別れの噴射です。この噴射により、探査機は時速約1000キロメートルという速度(旅客機より少し速いくらいの速度)で小惑星を離れました。

NASAの科学探査担当副長官であるトーマス・ズブーチェン氏は、「オサイレス・レックスの数多くの成果は、リアルタイムで行われる探査というものの大胆かつ革新的な方法を示すものでした。ミッションチームは困難にもしっかりと対応し、私たちはいま、太陽系の最も原始的なかけらを私たちの地球へと贈ろうとしている。それはおそらく何世代もの研究者によって研究され、秘密が解き明かされるだろう。」と、サンプル回収への期待を示しています。

さて、「はやぶさ2」もそうでしたが、探査機を目的地に送り届け、そして地球へと戻すためには、軌道の計算が不可欠です。そのために技術者たちは数多くの計算を行い、コンピューターのプログラムを書き、それを探査機に送り込み、小惑星ベンヌからどのように離れるべきかを指示したわけです。
ベンヌ離脱後は、地球へとサンプルを戻すことがチームの次の大きな目標となります。そのためには帰路にいくつかの軌道修正を行う必要が出てくるでしょう。

オサイレス・レックスの副プロジェクトマネーあj-であるNASAゴダード宇宙飛行センターのマイク・モロー氏は、「私たちがずっと考えてきたことは、『ベンヌに対し、探査機はどこにいるのか』ということだった。今は『地球に対して探査機がどこにいるか』と考えを変えている」と語っています。

オサイレス・レックスの軌道制御主担当である、カイネットエックス・エアロスペース社のピーター・アントレアシアン氏は、「帰還カプセル分離に向けて探査機を次第に地球に近づけるためには、定期的に軌道変更を行う必要がある。また、最後の噴射から少しずつ蓄積している誤差も考慮しなければならない。」と、この複雑かつ精密な制御の問題について語っています。

ミッションチームは、地球帰還の数週間前に軌道修正を行い、探査機を目的地に向けると共に、帰還カプセルが大気に対して正しい方向に向くようにします。帰還カプセルの突入角度が低すぎれば、カプセルは大気に「バウンド」する形で跳ね返されます。逆にきつい角度で突入させると、大気圏で発生する熱が強すぎ、カプセルは燃え尽きてしまうでしょう。そもそもカプセル分離に失敗してしまったら…という問題もあります。
もしカプセルが分離できなかった場合にもプロジェクトチームは別プランを考えており、探査機が次に地球に近づく2025年に再度カプセル分離を試みるということです。

この小惑星離脱に先立ち、4月9日、最後の写真撮影を行ったあと、ベンヌの方向を向いていた航法カメラの電源が切られました。ちょうどベンヌをバックミラーでみるような形で、技術者はNASAの深宇宙通信網(DSN)を使って探査機に信号を送っていました。探査機のトランスポンダー(電波発信装置)から送られてくる電波の周波数を調べることで、技術者は探査機がどのように動いているのかを知ることができます。また、電波が到着するまでの時間から探査機までの距離、そして位置を知ることもできます。

このようにして、今回の小惑星離脱は細かい計画のもとに立案されたものです。
そして、この先も精密な制御が必要です。オサイレス・レックス探査機には燃料が十分残っているのですが、ミッションチームはそれでもできる限り燃料を温存することを考えています。実は探査機は地球にカプセルを戻したあと、さらに別の小惑星の探査を行うということも考えているからです。ミッションチームは、この夏にもこのような延長探査を行うか、するとしたらどの小惑星に行くのかを決める予定です。

「今回の離脱にはチームの中にも様々な思いがある。みんな今回の探査は大成功だったと思っている。非常に困難な任務を実施し、また私たちに課せられた目的を全て達成したからだ。しかし一方で、ベンヌを離れるということで、ミッションの大きな部分が終わってしまうことへのちょっと残念な気持ち、あるいは過去を懐かしむような気持ちもじつはあります。」(モロー氏)

実際、オサイレス・レックスは素晴らしい成果を達成したと思います。しかも、このミッションは、全世界的に大変な時期に行われたのです。地球近傍小惑星であり、水や有機物を多く含むとされるC型小惑星のベンヌについて、多様な科学機器による調査を行いました。そして、当初の予定をはるかに超える、約60グラムものサンプルの採取に成功しました。カプセルの蓋が閉まらなくなるという「うれしい悲鳴」のおまけつきでした。
到着直後の2018年12月31日には、探査チームはベンヌから岩石が飛び出していることを明らかにしています。「このこと(石が飛び散っていること)がわかったとき、私たちは探査機に危険がないかどうかを判断するため、大あわてで確認をしなければならなかった。」(モロー氏)

ベンヌから飛び出す石

小惑星ベンヌから石が飛び散る様子の想像図 (Photo: NASA)

さらに探査を進めるに連れて、小惑星ベンヌの表面が岩だらけであるということが明らかになりました。これは「はやぶさ」や「はやぶさ2」における、イトカワやリュウグウを考えるとさもありなんという形ですが、やはり着陸に困難をきたすことは確かでした。

「ベンヌに到着したときには、空き地に着いた、と思っていたのだが、実はどえらく驚かされることになった。」(オサイレス・レックスの副主任研究者、アリゾナ大学のヒザー・エノス氏)

着陸の危険を何とか克服しなければサンプルを採ることはできmせん。そのために、技術者たちは大急ぎでより精密な航法手法を考案し、当初よりも小さなターゲット範囲を狙えるようにしました。

こうして、オサイレス・レックスは数多くの科学的な検証も行いましたし、また当初の予想とは異なる事実も発見しました。例えば、地球からの観測により、ベンヌは水や有機物が多い天体であると考えられていましたが、この点は確認できたといってよいでしょう。一方で、当初同じく地球からの熱放射の観測で、ベンヌの地表はかなりなめらかであるという予測がありましたが、これは事実とは異なりました。
科学者たちは今後観測結果を元に理論をより磨き上げ、さらに予想を立てようとしています。

「このミッションは、なぜ私たちが科学や探査というものを複数のやり方で実行するのか、例えば地球からの観測や実際に近くに探査機を飛ばすという形で行うことが重要なのか、ということを示している。仮定やモデルというのは単にそれ以上のものではないからだ。」(エノス氏)

さて、ベンヌのサンプルを収めた帰還カプセルは、2023年9月23日、ユタ州西部の砂漠(ユタ州試験・訓練場)に帰還する予定です。一方、探査機本体はエンジンを噴射して地球を離れ、太陽の周りを回る「人工惑星」となります。軌道は、太陽に近いところで金星軌道の内側に入る形です。

ここまで書いてきたところで、これらの話が「はやぶさ2」にそっくりだと思われた方も多いと思います。はやぶさ2とオサイレス・レックスは共に類似したミッションでもあり、またどちらかがどちらかの真似をしたわけではなく、相互に工夫をしながら達成したものです。もちろん、両者ともチームメンバーが相互にやり取りをしていますし、サンプル分析も相互に行われる予定です。

60グラムという大量のサンプルが地球に帰ってくれば、「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルと合わせ、小惑星、とりわけ水や有機物を多く含むとされるC型小惑星の理解が大きく進むでしょう。特に、2つの異なる(でも似ている)小惑星からのサンプルを比較すれば、そのでき方や小惑星の歴史などを互いに比較することができ、小惑星の成り立ち、さらには太陽系のでき方などに大きく寄与することが期待されます。

もう一つの玉手箱が私たちに何をもたらしてくれるのか、あと2年半、ワクワクしながら待ちましょう。