これまで日本の探査機は「日本版○○」といわれることが多くありました。しかし、今回のこのアメリカの探査機に限っては、「アメリカ版はやぶさ」というキャッチフレーズがよく使われるという意味で、ある意味日本人にも馴染み深いものになるのではないでしょうか。

そのアメリカ版はやぶさ…オサイレス・レックス(オシリス・レックス)の打ち上げが迫ってきました。
打ち上げ時刻は、アメリカ東部夏時間で9月8日午後7時5分(日本時間では翌9月9日の午前8時5分)です。

ベンヌ上空を飛行するオサイレス・レックス(オサイレス・レックス)探査機

目的地の小惑星ベンヌ上空を飛行するオサイレス・レックス(オサイレス・レックス)探査機の想像図 (Photo: NASA/ASU)

オサイレス・レックスは、NASAがはじめて行う小惑星からの無人サンプル・リターン計画です。「NASAがはじめて」(しかも日本の方が先)というのはかなり珍しいですが、いずれにしてもそうなのです。
オサイレス・レックス探査機は、小惑星ベンヌへ向かい、サンプルを採取し、地球へと持ち帰ります。採取するサンプルの量は60〜2000グラム(最大で約2キログラム)と予想されています。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星のサンプルを持ち帰ったといっても、サンプル採取機構がうまく動作しなかったこともあって結局微粒子にとどまってしまったことを考えますと、もし2キロものサンプルを持ち帰ることができれば非常に大きな成果となります。

オサイレス・レックスの目的は、「はやぶさ」と同じで、小惑星のサンプルを調べることで、太陽系の成り立ち、地球など惑星ののなりたちなどを知ることにあります。小惑星は、太陽系ができた頃の物質をほぼそのまま残している、いわば「太陽系のタイムカプセル」です。その物質がどのようなものかがわかれば、私たちの地球、そして私たち生命を作った物質がどのようなものであったかを知ることにつながっていくのです。
このオサイレス・レックスは英語でOSIRIS-RExという名前を書きますが、これは Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security-Regolith Explorer (直訳しますと「(小惑星の)起源・スペクトル情報の解釈・資源の同定・安全につながる情報の探査を行う、レゴリス(からサンプルを採取する)探査機」となります)という、かなり無理やりな名前の頭文字を取ったものです。ただ、それぞれの単語には深い意味があります。

スペクトル情報というのは、単にサンプルを採取するだけでなく、目的地の小惑星ベンヌを詳細に(リモート探査で)調べて情報を取得するということも目指しています。
資源探査という言葉には、小惑星が将来、人類にとって有用な資源を採取する場所になる可能性があるという意味がこめられています。実際アメリカではすでに小惑星からの資源採掘を目的としたベンチャー起業が複数立ち上がっていて、今回のオサイレス・レックスの探査によって得られる情報は、これらの資源採取・採掘にとっても大きな意味を持つことでしょう。
「安全」という言葉はあまりピンとこないかもしれません。しかし、小惑星、それもベンヌのように地球に近いところにいる小惑星(地球近傍小惑星)を調べることは、将来地球にこういった天体がぶつかってくる可能性や、それを避けるための方策を研究する上でも非常に重要な役割を果たします。NASAは実際、小惑星の地球衝突の可能性を研究し、それを避ける方策を研究する「小惑星グランドチャレンジ」という計画を進めており、今回の探査のデータはそこにも確実に活かされることでしょう。

探査機は打ち上げ時の重量が2110キログラム、打ち上げはアトラスV(411型)ロケットで、アメリカ・フロリダ州のアメリカ空軍ケープカナベラル宇宙センターで行われます。なお打ち上げは、9月8日(現地時間)から34日間可能です。
打ち上げ後、目的地の小惑星ベンヌまでは約2年の飛行で、2018年に到着します。ここでサンプル採取や現地観測を行い、帰還は2023年9月の予定です。

NASAは最近小惑星探査へ大きく傾倒しています。小惑星に宇宙飛行士を送り込むとともに小惑星の一部を回収しようという「アーム」(ARM: Asteroid Return Mission)を含めた「小惑星イニシアチブ」という大きな枠組みをスタートさせ、これを火星有人飛行への足がかりにしようとしているのです。
オサイレス・レックス自体は、「はやぶさ」が小惑星イトカワのサンプル回収を行ったあと、2006年にスタートしました。いわば、日本の探査に刺激されて立案された計画ともいえるのですが、今やこのミッションは、NASAの小惑星に向けた意気込みを示すものとなっているといえるでしょう。
その意気込みは、NASA本部の科学ミッション部門の副部門長であるジョフ・ヨーダー氏の次の言葉に現れています。「この探査は、私たちの国(アメリカ)が太陽系、そしてその先に赴いて探査を実施し、宇宙全体、そしてこの私たちの地球をより深く理解しようとしていることの1つのよい例といえるだろう。NASAの科学こそはこの惑星の科学的な発見の大きな原動力であり、オサイレス・レックスは、『革新し、探求し、発見し、そして鼓舞する』(innovate, explore, discover and inspire)という、本部門の使命を象徴するものである。」

オサイレス・レックス計画の総責任者であり、私(編集長)とも何回かお話しさせていただいている、アリゾナ大学ツーソン校のダンテ・ローレッタ博士は、「小惑星ベンヌの新鮮なサンプルを得ようというオサイレス・レックスの7年にわたる旅はまさに今始まろうとしている。探査チームは素晴らしい探査機を作り上げた。ベンヌの調査には十分すぎるほどの科学機器を搭載しており、科学的に貴重な宝物(=サンプル)を持ち帰ってくるだろう。」と、探査への自信をのぞかせています。

オサイレス・レックスのプロジェクト・マネージャーであるNASAゴダード宇宙飛行センターのマイク・ダネリー氏は、「この打ち上げは、私たちの途方もない努力の上にようやく実現できたものであり、それは探査チームに属する科学者、技術者、技術支援者、財務担当者など、すべてのチームメンバーの力によるものである。私はこのチームを本当に誇りに思う。そして、便雨への、そしてベンヌからの旅を楽しみにしている。」と述べています。そうです、今度は『戻ってくる旅」もあるのです。

オサイレス・レックス探査機には、小惑星をリモートで調べるための5つの科学装置、そしてサンプル採集装置(TAGSAM: タグサム、Touch-And-Go Sample Acquisition Mechanism)が搭載されています。TAGSAMは「はやぶさ」シリーズの、弾丸を打ち込んでその破片を採取するやり方とは異なり、窒素ガスを小惑星の表面に噴射し、舞い上がった砂や小さな岩・石のかけらを採集するという方法をとります。この成否も、今回のミッションの見どころといえるでしょう。

オサイレス・レックスは、ちょうどいま小惑星に向かっている日本の探査機「はやぶさ2」と重なる形となりますが、両者は決して敵同士というわけではなく、よいライバル、というよりむしろお互いに目的を同じくする「友だち」に近いと思った方がよいでしょう。実際、日本とアメリカ間では両ミッションでの協力計画が結ばれていますし、「はやぶさ2」の関係者も打ち上げに招待されるなど、ミッションチーム同士も交流があります。もちろん私も、ダンテさんとは広報面などで協力していくことになります。
あとは無事の打ち上げ、そして7年間にわたる旅路の無事を祈るのみです。私も成功を心から祈っています。


おことわり
この探査計画は、多くの報道やブログ等において「オシリス・レックス」と呼ばれています。本来「オシリス」とは、日本語で古代エジプトの神の名前の呼び名とされているものです。もちろん、探査機の名称も強引にそれに当てはめているわけですが、OSIRISという単語については、アメリカでの現地発音とは異なった表記となっています。 月探査情報ステーションでは、探査記名についてはできる限り打ち上げ当事国での発音に近い形で表記することとしております。このため、このプロジェクトのメンバーへ確認の上、本サイトでは、もっとも現地(アメリカ)における発音に近い「オサイレス・レックス」という表記を用いております。