2018年6月14日、JAXAはやぶさ2プロジェクトチームは、小惑星リュウグウ到着を控えた探査機「はやぶさ2」の状況を報告しました。14日時点でリュウグウと「はやぶさ2」との距離は約750キロメートルとなり、到着まで7回ほどの軌道修正を行ってリュウグウとの距離を詰めていく予定です。
近づきつつある小惑星リュウグウはONC-T(光学航法カメラ・望遠)によって10ピクセル四方ほどの大きさで捉えられるようになってきました。小惑星の形状はまだ詳細にわかるとまではいえず、ミッションマネージャの吉川真准教授のコメントでは、「丸っこいが少し角ばっているともいえる」というところです。TIR(中間赤外カメラ)が小惑星リュウグウの表面の明るさの変化(ライトカーブ)を観測したところ、リュウグウの自転周期はこれまでの想定通り、約7.6時間であることが確かめられてきつつあります。
今回の発表によると、6月上旬に小惑星リュウグウが自身の衛星を持っているかどうかの探索が行われました。これは、小惑星の周りを公転する天体(衛星)がもしあった場合、「はやぶさ2」が到着したときに衛星と衝突する危険があるためです。安全に小惑星探査ミッションを遂行するために必要なプロセスで、初代「はやぶさ」の小惑星イトカワ接近の際にも行われました。
“衛星”といっても、小惑星は火星などの惑星よりもはるかに小さく、重力の弱い天体です。そのため、衛星のサイズも岩石のかけらといってもよい程度の小さなサイズになります。これまでに発見されたNEA(地球近傍小惑星)の数は2016年時点で1万5000個ほどある中で、衛星を持った小惑星は67個ほど。かなりレアな存在で、推定で直径900メートルほどの小惑星リュウグウが衛星を持つ確率は低いとみられています。
「はやぶさ2」の安全のためには衛星はないほうがよいとはいえ、もし存在すればサイエンスの立場からは面白い発見です。リュウグウの衛星探索はONCチームによって6月7日に、「はやぶさ2」と衛星が接触することがない安全な距離(2100キロメートル)から行われました。リュウグウを公転するごく小さな衛星が放つ光を捉えるため、178秒と長時間の露光を行い、午前8時すぎから4回にわたって1回につき3枚を撮像します。3枚撮影するのは、カメラのCCDに宇宙線がぶつかってノイズが発生することがあるため、3枚を比較してノイズを取り除くことが目的です。
小惑星リュウグウがもしも未知の衛星を持つとすれば、それはどのように見えるのでしょうか? ONCチームの一員である産業総合技術研究所 人工知能研究センターの神山徹主任研究員によれば、「リュウグウの衛星ならば、リュウグウと同じ物質でできていることが考えられます」とのこと。リュウグウは炭素を含んで黒っぽい物質でできているとされることから、衛星も同様であり、これが直径50センチメートル程度の大きさであれば、観測した距離から12等級の明るさで確認できるといいます。
画像でリュウグウの周囲に白い粒をまいたように見える無数の明るい点をマークして数えたところ、「リュウグウの周りを公転している」と考えられるものはありませんでした。つまり、50センチメートル以上の大きさの衛星は現時点ではないと考えられます。安全を確認したことにより、「はやぶさ2」はリュウグウから50キロメートルまで接近できるようになりました。さらに、もっと小さな直径10センチメートルほどの衛星が存在する可能性もあるため、衛星探索は引き続き実施されるとのことです。
今回の衛星探索により、小惑星リュウグウが衛星を持ち、「はやぶさ2」と衝突してしまう危険はほとんどないといえそうです。ですが、このサイズの小惑星が衛星を持つという可能性はゼロではなく、それはそれでとても興味深いことです。神山さんは「もしリュウグウの周りに衛星がいるのであれば、こんな面白いことはない」とコメントしており、吉川准教授も「サイエンスの立場からすれば、何か変わったことがある小惑星だといいな」と述べています。まだまだ始まったばかりの小惑星リュウグウの探査ですから、想像もつかない隠し玉があると期待してしまいますね。
取材・文・写真: 秋山文野
- はやぶさ2 (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/challenge/pex/hayabusa2