第43回月惑星会議では、新たな探査による様々な新しい成果が発表されています。そのうちの1つに、昨年7月に小惑星ベスタを周回する軌道に入った探査機ドーンのデータの初期解析があります。この発表内容について、イギリスBBCが伝えています。
この初期成果によると、これまでベスタは、「大きな小惑星」と考えられてきましたが、表面についての詳細な解析の結果、地球のような固い表面をもつ惑星との中間段階に位置する天体であるということがわかってきました。
この会議の発表において、ドーンのプロジェクトマネージャーであるクリストファー・ラッセル氏は、「ベスタを調べていくと、これを惑星と呼べない理由を見つける方が難しい」と語っています。
実際、その表面にみられる特徴は、地球や月などを形作っているものと同様なプロセスによってできたと考えられます。


小惑星ベスタは、直径が約530キロメートル、火星と木星の間にある小惑星帯に位置しています。小惑星の中では2番目に大きく(編集長注=2006年に同じく小惑星帯にある天体ケレスが準惑星に分類されるまでは、3番目に大きな小惑星でした)、その表面には、レアシルビアという名前の巨大なクレーターがあります。また、表面には、まるで引っかかれたような巨大な模様が存在しています。
今回の探査で判明したのは、ベスタの地形、とりわけ標高差に大きな特徴があるということです。地球や火星、月などでは、地形の標高差は十数キロに及ぶことがわかっていますが、実はベスタも、これらの天体よりはるかに小さいにもかかわらず、同じように大きな標高差があることがわかったのです。
ドイツ航空宇宙センター(DLR)のラルフ・ジャウマン博士は、「地形の標高差は、こういった天体(地球や火星、月など)では半径の1パーセントに達する。これがベスタの場合、15パーセントになる。さらにもっと小さな小惑星であるルーテシアになると、この比率が40パーセントになる。」と述べています。
すなわち、このような数値の関係は、ベスタがいわゆる小天体と惑星との中間的な性質を持っていることを物語っています。
もう1つのポイントは、ベスタ表面にみられる様々な地質学的な特徴です。地質学者はこのような表面地形の変化の過程を「地質プロセス」と呼び、その天体がどのような進化を遂げてきたかを知る重要な材料とみなします。ベスタの場合、この地質プロセスの多くの部分を占めているのは他の天体や隕石の衝突ですが、この地質プロセスに関係するのが、表面に多数存在する黒い物質です。
科学者は、この黒い物質は、ベスタに低速で衝突した炭素に富む小惑星が起源ではないかと考えています。低速衝突で、飛び散ることがなかったというのがポイントです。
さらに、より高速の小惑星衝突により、ベスタの表面に玄武岩質の地表ができたとも考えられます。
科学者たちは、ベスタに火成活動があったことはまず間違いないと考えています。それを証明するのは、実は世界中の博物館に何百と飾られている隕石です。この隕石、HED隕石といわれていますが、月や火星起源の隕石よりも多くのHED隕石が見つかっています。このHED隕石はベスタが起源だと考えられていますが、化学的な分析により、火成活動の痕跡が見つかっています。
アリゾナ州立大学のデーブ・ウィリアムズ氏は、「(HED隕石の分析により、)ある時点で溶岩流が存在したことはわかっている。なので、ベスタ表面にはいくつかの溶岩流とか、火山のあと、あるいは噴出口などが存在するのではないかと期待していた。ところが、いままでに(ドーンで)撮影された画像を見る限りでは、そういったものは存在しない。」と述べています。「おそらく、それは衝突活動のためではないだろうか。証拠をすべて破壊してしまったのだろう。」
ジョンズホプキンス大学応用物理研究所に所属する、ドーン計画の科学者ブレット・デネビ氏は、いくつかの衝突によりベスタの表面が溶融したことについての説明をしています。マルシアと呼ばれるベスタ表面のクレーターについて、「私たちは、少なくともこのクレーターのぶつかった部分の一部について、溶けて流れたと考えている。衝突速度は、少なくともこのクレーターを作り出した衝突については表面を溶かすほど十分に高速だった。」と語っています。
またデネビ氏は、「今のところ衝突による溶融の跡はこれまで発見されてきていなかった。小惑星帯での衝突速度は、太陽系内部での衝突に比べるとはるかにゆっくりだからだ(編集長注: 太陽や惑星の引力に引っ張られて高速になる太陽系の内惑星の衝突に比べ、互いの相対速度が小さい小惑星帯での衝突はゆっくりであると考えられます)。従って、ぶつかった領域を溶融させるほど衝突のエネルギーが大きかったかどうかというのはわからなかった。」とも述べています。
(編集長注)HED隕石とは、大部分が石(鉄などではなく、二酸化ケイ素を主成分とする、月や地球、火星を構成する岩石とよく似た物質)でできた隕石で、そのうちの1カテゴリーであるエコンドライトの、さらに1つのグループを構成しています。HEDとは、ハワルダイト(Howardite)、ユークライト(Eucrite)、ダイオジェナイト(Diogenite)という3種類の隕石グループの総称で、表面スペクトルの観測から、これらはベスタ起源である可能性が高いと考えられています。